Trick or treat!





――トントンっ、


普段クルーたちが部屋を訪れた時よりも幾分か低い位置で小さく鳴る部屋のドア。



「ロー!」



前もって予想はしていたものの今このタイミングで現れたことに顔を顰めるのは、部屋の主である船長のロー。



「チッ…何だ」

「あけてー」

「カギは開いてる、用があるなら勝手に入ってこい」

「てがとどかないのー!」

「じゃあ入ってくんな」

「うー…」



ドア越しに意地悪く答えてやれば、隣に座るマリアが睨みを利かしながらパシンと俺の膝を叩いた。

甘えるように俺の首に回していた腕を名残惜しむことなく離し、スタスタとドアへ向かう後ろ姿はまさに母親そのもの。


――ったく、2対1じゃ…しょーがねェな。


内心毒づいてはみたものの、テーブルの上に用意してあった籠を手に、ドアへ向かう俺も何だかんだで相当甘いらしい。



「あらあら、可愛い魔女さんね。こんばんは」

「えっへへー!ぇっと〜…ん?なんだっけ??」

「おいメイ、お前は廊下歩いてる間に頭ん中のもんが抜け落ちちまうのか」

「むっ!ママー、ローがまたいじわるゆうー!」



ドアを開けた先にちょこんと佇む三角帽をかぶった魔女が、頬を膨らませプリプリ怒っている。


ま、こんなチビ助が睨み上げてきたところで怖くも何ともねェが…

見てて飽きねェのは、マリア譲りか?



「トリック・オア・トリート、だ。ほら言ってみろ」

「と、とりくあ…」

「トリック、な。お前ほんとバカだろ」

「むぅ…!またいじわるゆったぁぁあ!!」



持っていた魔女のステッキでビシビシと俺の向う脛を狙ってきやがるメイの首根っこを掴んで持ち上げれば、途端に隣から上がる非難の声。



「…もう!ローってばそれが我が子に対する態度なの?」

「だから俺はコイツの父親になったつもりはねェよ」

「じゃーパパはベポがいいー!!…っふむ!んぐ!!」



マリアが呆れたような視線を寄越すのには構わず、キャッキャとうるさいメイの口にマシュマロを押し込んで黙らせてやった。


もぐもぐと膨らんだ頬っぺたを一生懸命動かすチビ助の、三角帽から覗くサラサラの髪の毛は俺と同じ夜の海の色。


抱き上げた俺のパーカーをギュッと掴んで離さない小さな手を愛おしく思うこの感情は、まだ言葉にはしないでおこう。





A HAPPY HALLOWEEN






「おいメイ、"トリック・オア・トリート"」

「んー?」

「んーじゃねェよ、菓子出すか悪戯されるかのどっちかだ」

「……おかし………んべっ」

「おい、まさかその口ん中にあった飴玉を渡すつもりじゃねェだろうな」

「ロー、ぶどうあじキライ?」

「…そういう問題じゃねェ。お前、どんな教育受けてそうなった」

「…ん??」




2010.10.19



今後書いてみたい中編or長編の予告みたいな感じで、ハロウィンネタ^^* ワケありパパローさんとマイペースなおチビちゃんでした。



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