お父さんは心配性2




てくてくてく、てくてく…―

通い慣れた公園までの道のりを、幼い少女が鼻歌交じりに歩いていた。


時折立ち止まってはコックが持たせてくれた紙袋の中身を確認して、ニコニコと笑ってまた歩き出す。


その小さな背中を追って建物の影から影へ移動していく存在には、まったく気付く気配がない。



「ねえキャプテン、もうやめようよ〜」


「うるせェ、黙ってろベポ」



ログが貯まるまでに約1ヶ月かかるこの春島で、メイが友達になったリックという少年。

寝耳に水とはまさにこのこと―…今朝食堂で耳にした名前が気になって、こうして愛娘を尾行するという、普段のローらしからぬ行動に出ているわけだ。



「おい、リックっつーのはどいつだ」



そうこうしている内に到着した、港近くの公園。手を振り駆け出すメイの背中を追いながら、苦虫を噛み潰したような表情でローがベポへと問いかける。



「えっと…たしかあの…あっ、ほら今メイとベンチの方に歩いてった子だけど…」


「……あいつか」


「え、キャプテンどこ行くつもり!?ダメだよ、出てったら!」


「俺に命令するな」


「もうっ!おれがマリアに怒られちゃうよ〜キャプテン!」



肩に掛けていた物騒な刀を右手に持ち替え、仲良くベンチへ腰掛ける可愛らしいカップルへと近付いていくローと、その背を慌てて追いかけるベポ。



「リック、これあげる!」


「わああ!クッキーだ〜」


「あのね、メイのふねのね、コックさんがつくってくれたの!」


「メイちゃんのふね?」


「うん、そーだよ!」



ガサガサと紙袋から取り出したコック手製のクッキーを頬張り、会話を弾ませる二人に割って入ったのはもちろん―…



「……おい、」


「あ、ローだぁ!」



突然現れたローに驚きはしたものの、嬉しそうにベンチから立ち上がったメイが一直線にローの向う脛へとタックルした。



「メイちゃん、そのオジサンだぁれ?」


「ん?ローのことー?」


「あァ?オジサンって誰に向かって言ってんだ、くそガキ」


「ぼくはくそガキじゃない!メイちゃん、あっちいこ」


「えっ、あ、わっ…リック?」



キッとローを睨み上げたリックは少し乱暴にメイの手を握ると、くるりと背を向け歩き出す。

明らかにローに対して敵対心剥き出しのリックの行動に、そばで見守るベポは我らがキャプテンが騒ぎを起こさないかと胆を冷やしていたのだが……



「ROOM」


「わ、キャプテン!?そ、それはさすがにまずいよっ」


「シャンブルズ」



ベポの制止を物ともせず、サークルを作り出したローが足元に転がっていたサッカーボールとメイの場所とを瞬時に入れ替えた。



「う、うわぁあ!?な、メイちゃん!?」


「ロー?」


「コイツの手を引くには、お前じゃまだ役不足だ…フフ」


「…!!」



慌てふためく子供相手に、大人げなく中指を立てるローがニヤリと笑う。その後ろには、疲れ切った表情で肩を落とすベポ。


刺青の入った腕に抱きかかえられたメイはというと……キャッキャとはしゃぎながら、嬉しそうに逞しい腕にぶら下がっていた。






お父さんはやっぱり心配性






船へ戻るまでの道すがら、少女の笑い声は絶えず。

そこに混じる少し低い笑い声を知っているのは、心配性の白熊ただ一人だけ。


彼女が父離れするのは、まだまだ先のお話…?






2011.7.13





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