今日はたのしいひな祭り




数日前からとある島に船を停泊中のハートの海賊団。

ログが貯まるまでに日数を要することもあり、交代で船番をしながら各々陸での自由な時間を満喫していたのだが。



「おい…こりゃ何の騒ぎだ、一体」



太陽が真上に昇る頃になってやっと起き上がって来たローが、寝起きの顰めっ面をさらに歪ませたのも無理はないのかもしれない。


目覚まし代わりの珈琲を求め、食堂へ向かったロー。

しかしすれ違うクルーたち全員、船長への挨拶を律儀に送りながらも慌ただしく廊下を駆けて行く。

食堂へ着いたら着いたで、自分以外の全員が勢揃いしているのではないか?というくらい大人数の男たちがわいのわいのと盛り上がっている始末。



「あー!ロー!!やっとおきたぁー」



取り囲む男たちの輪を抜け、タタタッと駆けてくる小さな身体。向う脛に激突される前にヒョイと持ち上げれば。



「なんつー格好してんだ、お前は」


「ん?ぇっとねー…おひな、しゃま?」


「はァ?」



コテンと小首を傾げるメイが身に纏うのは、緋色を基調とした華やかな晴れ着。よく見れば髪の毛も可愛らしく結い上げられ、大きなリボンが飾られている。



「今日はひな祭りっていう、女の子の健やかな成長を願う日らしいよ」


「ひなまつり…?」


「うん、今朝市場へ買い物へ行った時に島の人に教えてもらったの」



それでほら、みんなが祝ってくれてるんだよ――というマリアの言葉に、あらためてローが辺りを見渡せば。


コックと一緒になって大量のちらし寿司に団扇で風を送る者や、ちまちました人形飾りを赤い布が敷かれた壇上に並べていく者など、様々だったが……



「ったく…どいつもこいつもだらしねェツラしやがって」



皆一様に目尻を下げてこの船一番の、小さな小さなお姫様の為に一生懸命だった。



「ローもおすし、いっしょたべよーねっ!」



ぎゅううっと嬉しそうに抱きつく、メイへの照れ隠しなのか――溜息と共にそっぽを向いたローの視界に飛び込んできたのは。




「おーい!やっと蛤が手に入ったぞー!」



息を切らしながら手にした買い物袋を持ち上げて見せる、いい笑顔のペンギンの姿だった。



「……何やってんだ、お前」


「何って、メイのひな祭りのお祝いに決まってるだろう」


「いや、だから何でお前が一番張り切ってんだ」


「ほらほら、ローも父親役奪われたからって拗ねないの!」


「あァ?何だと?」


「ロー!ママ!けんかしちゃダメなのぉー!」






今日はたのしいひな祭り




(別に、拗ねてねェ…)
(ホント素直じゃない父親なんだから…)






2011.3.3





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