Happy Birthday,Daddy!




ふわふわと心地よいまどろみの中、頬に当たる温かな光を感じた。眩しさに身動ぎしながら、ああそうか、そういえば今は船を浮上させていたのだと思い出す。

と同時――ゆっくりと意識は覚醒し、どこからか漂ってくる甘い匂いに気付いた。



「ローぉ!おっきして!!ろぉおお!」

「……ちっ、うる…せェ」



ぺちぺちと小さな紅葉の手で、俺の頬を叩いてくるチビ助。その軽すぎる身体をひょいと持ち上げて、腹の上から退かせば。



「むうっ!ローロロー!ローォおおおーう!ローはねぼすけ〜♪」

「……おい。ヘンな歌、作んな」



ワケの分からない自作の歌(…なのか?)を歌いながら、シーツから出た俺の腕を揺さぶるメイ。マッサージにもなりやしない微弱な力のソレを戒めるように、ぎゅうっと白餅のような頬を引っ張ってやれば。



「きゃあっ、のーびーるー!ひゃはっ」



どこぞの麦わら帽子の男のようにグニグニ伸びる頬に痛がる様子もなく、キャッキャとはしゃぎだした。期待はしていなかったが、反省の色は全くない。それどころか相手にしてもらえるのが嬉しかったらしく、今度は勢いをつけて腹の上に飛び乗ってきやがった。



「こらっ、てめェ!」

「ローおめでとー!」

「……は?」



俺の腹に乗っかったままスリスリと額を擦りつけてくるメイから、思わぬ言葉が飛び出して一瞬固まる。



「たんじょーび、おめでとっ!」



誕生日――またひとつ歳を重ねる、自分が生まれた日。そういえば今日がそうだったかと、メイに言われてはじめて思い出した。



「……ああ、」



パッと頭を上げて、顔いっぱいに咲かせたくしゃくしゃの笑顔を見せるメイ。あまりの眩しさに思わず目を細めそうになるが、よくよく見ると……何故か口周りをテカテカに光らせている。

どうもさっきから甘ったるい匂いがすると思えば――コイツが正体か。



「おい、何をつまみ食いしてきたんだ?お前は」

「ん?えとねー、あじみ!した!!でーっかい、ケーキ!」

「……ケーキ?」

「うんっ!えっと、おいわい…?するの!いこっ、ロー!」



自分の誕生日でもないくせに嬉しそうに笑う、メイの真っ直ぐな視線がどうにもくすぐったい。

きっと船内ではクルーたちがいつも以上に賑やかで豪勢な、宴の準備を進めているだろう。普段はお目にかかることのないご馳走に、今にもよだれを垂らさんばかりのベポの姿が目に浮かぶ。



「仕方ねェな、行くか…フフ」



可愛い可愛いエスコート役の小さなお姫様の手を取って、さあ行こう。






生まれてきてくれて、ありがとうの日





(おい、メイ…何だこりゃ…)
(ん?くりーむ…?)
(てめェ、さっき俺の服にクリーム擦り付けやがったな!?)




2011.10.6





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