セクハラ その8




八月も残すところあとわずか。お盆を過ぎてからというもの、このグランド商店街も人出は落ち着いてきている。学生さんもやり残した課題に追われているのか、あまり姿を見ない。



「最近朝晩もだいぶ涼しくなってきましたねぇー」

「そうだな、暦の上ではもう秋だしな」



日課である出勤後の店舗前の掃き掃除を終え、ほうきと塵取り片手にペンギンさんとしばし雑談。飛行機雲の走る青い空が気持ちいい。素直に今日も一日頑張ろうと思える時間だ。



「そろそろ店頭の商品も入れ替えないとですね!」

「ああ、日焼け止めや制汗剤のコーナーは今日撤去しようと思う」

「じゃあとりあえずあの等身大パネル、奥に引っ込めましょうか?」



言いながら私が指差した先にあるのは、大手化粧品メーカーが今夏より売り出した日焼け止めの販促用パネル。今人気のモデルが大胆なビキニ姿になった人型のそれは、店頭での集客にとても役立ったものだ。さすがにもうそろそろお役御免でいいだろう。



「それなんだが、店長が捨てずに事務所へ置いておけと言ってたんだ」

「そうなんですか?何かに使うんですかね…?」

「さあな。あいつの考えることはよく分からんからな」

「あはは、たしかに!じゃあ店長の机の後ろにでも運んでおきますね」

「ああ、頼む」



*****



そんな会話をしたのが、三時間ほど前。宣言通りパネルを事務所へ運び、その後は商品のストック出しやらを忙しなくこなして…気付けば現在、正午過ぎである。ペンギンさんに送り出してもらい、休憩に入った私は事務所の扉を開けて硬直なう。



「………何してんですか、店長」

「ナマエか、いいところに来たな。丁度いま出来上がったところだ」



そう言って愛おしそうな手つきで店長が撫でるのは、さっき私がせっせと運んだはずの販促用パネルだった。いや、単にそれだけなら特に問題はないのだが……おかしなことに人気モデルのフレッシュな笑顔が、何故か丸くくり抜かれている。



「え、っと…何が出来上がったか聞いていいですか…」

「なんだ、待ちきれねェってツラだな…フフ」

「あ、すいませんやっぱり嫌な予感しかしないんでいいで、」

「これはお前専用の水着パネルだ」

「わー制止を振り切って言い切ったよこの人!」

「あ?精子?」

「ベタすぎる誤変換!てか私専用ってどういうことですか!!」



何となく次の展開が読めてきて、じりじりと入り口の扉に向かって後退る私の腕を、ニヤリと笑った変態店長がイヤになるくらいの俊敏な動きでがっしり掴んだ。そしてずるずるとパネルの裏側へ連れてこられたら、もうすべての状況を理解せざるを得ない。


そう、アレだ。よく観光名所なんかに置いてある、顔の部分だけ穴が開いておりそこに嵌まるように人間が立って、写真を撮ったりするアレである。要するに私は今、ボンキュッボンのビキニ姿のおねーさんとアイコラされてる状態である。



「おお!いいぞ、ナマエ!やっぱり白いビキニは最高だな!!」



きゃっきゃっとはしゃぎながら、両手の指でカメラのファインダーを形作る店長が、パネルと私の周りをくるくると回る。何だろう…ちゃんと服を着てここに立っているはずなのに、この妙に羞恥を煽る空気は…!



「まったくそのけしからんビキニ姿をもっと白く汚してやりたいもんだ」

「……ペンギンさんに訴えてやるっ!」



私の悲痛な叫びは、きっと店頭のレジに立って忙しく働くペンギンさんには届かないだろう。ああ、お昼休みが変態店長からのセクハラまがいな拘束で終わっていく…。






眩しい夏のキミに首ったけ






2012.8.28





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