セクハラ その1




〜♪チャララ〜ン♪
薬のことなら〜白い熊さ〜ん♪ベポでおなじみ!ハート〜薬局ま〜で〜♪
ズンチャッチャ♪ズンチャッ♪


のん気な店内BGMに合わせて鼻歌交じりに床をモップがけしているのは、ハート薬局店員のナマエ。

オレンジ色のエプロンを身に付けゴシゴシと床を磨く動きに合わせて、シュシュで束ねた髪の毛が揺れる。



「んー?…ここの汚れが取れないや…」



腰を折り曲げ低く屈むと、ナマエはモップを持つ手に更に力を込める。

床の汚れを取る事に必死で、背後から近付く不穏な影には全く気付いていない。



ゴシゴシ…キュッキュッ…

…ゴシゴシ…、むぎゅ!



「っひぃぎゃあッ!?」


「何だ、その色気のねェ声は…つまんねェ奴だな」


「ちょっと店長!い、今わた、私の…ッ!!」


「…あァ?ケツ突き上げて、触って欲しかったんじゃねェのか?」



慌てて後ろを振り返ると、ワキワキと右手を厭らしく動かしながらニヤリと笑うセクハラ店長が立っていた。



「触り心地はまぁまぁだが、あとはもうちっとソソる声を出すことだな」


「〜っ…!!」



嫁入り前の乙女のケツ触って、…いや…触るなんて生ぬるい!ガッツリ握っておいて、言うセリフがそれですかッ!!


ひどい扱いを受ける度に、こんな店辞めてやる!と心に誓いを立てるのだが…―



「おい店長、またナマエを苛めてるのか」


「ペンギンさんっ!も〜また店長がセクハラしてくるんですー!」



優しくて紳士な私の救世主、薬剤師のペンギンさんの登場だ!

サッと店長から離れてペンギンさんの背中に隠れれば、よしよしと優しく頭を撫でてくれた。



「嫌な思いさせて、すまなかったな」


「おい人聞き悪ィこと言うなペンギン、可愛がってやってるの間違いだろ?」



白衣を羽織ったペンギンさんがやって来て、いつものように店長を注意してくれたが…相変わらず店長は悪そうな顔でニヤニヤ。


けど、申し訳なさそうに謝るペンギンさんの顔を見てると「辞めます!」なんて言いづらくて…結局毎日流されてしまうんだよね。


それに時給が高いのもなかなか辞められない理由。

一人暮らしのナマエだったが、ドラッグストアの給料だけで十分生活していけるほど。

このハート薬局で働く前はアルバイトをいくつか掛け持ちしていて、それはそれは大変だったのだ。



「…も〜、ほら店長も早く白衣羽織って下さいよ!もうすぐ開店時間なんだから」


「俺に命令するな」



そう、ラフなパーカーにジーンズという出で立ちの店長も立派な薬剤師兼この薬局の経営者。

ぶつぶつ文句を言いながらも白衣を纏えば、それなりに見えるから不思議だ。いつもは単なるセクハラ野郎なのに。

折り返した袖から覗く両腕にはびっしり入った刺青が派手に主張しているが、店長の雰囲気に妙に似合っていて何故だか気にはならない。



「じゃあ私、シャッター上げて来ます!」



外へ出ようと裏口の扉を開けると――



「あ、おはようございます!」


「おぅ、荷物だ。サインもらえるか」



うちのお店を担当してくれている、新星急便のキッドさんが段ボール箱を抱えて立っていた。



「…あァ?何だ…誰かと思ったら、赤ゴリラか」


「トラファルガー、てめェ…!大体ゴリラは赤くなんざねェ!」


「えっ、ちょ…まずゴリラって言われたとこにツッコミましょうよ!キッドさん!」



店長とキッドさんはどうやら昔からの知り合いらしく、配送の為にキッドさんがお店に顔を出すといつもギャーギャーとじゃれあっている。



「お、頼んでいたやつがやっと届いたか」



裏口で騒ぐ店長達は無視して配送伝票にサインをしていると、店内からペンギンさんがやって来た。



「頼んでたやつって…」


「あぁ、ノベルティのベポストラップだ」



べりべりと段ボールを開封しながら微笑むペンギンさんにつられて、箱の中を覗き込めば…プチプチの梱包材に包まれた大量のベポが…!!


『ベポ』とは我がハート薬局のマスコットキャラクターで、オレンジ色のエプロンを身に付けた白熊である。


これがまた女子中高生に人気で、店頭に飾ってあるベポ人形と撮った写メを携帯の待ち受けにするのが流行ってるらしい。



「わぁ!可愛いー!」


「三千円以上買い物すれば、ナマエにもやるぞ?」


「え〜ホントですか!何か買っちゃおうかなぁ〜」



冗談めかして笑うペンギンさんと盛り上がっていると、キッドさんを足蹴にして追い払った(…ヒドい)店長がすかさず食い付いてきた。



「おい!何言ってんだ、俺のベポは誰にもやらねェぞ!」


「お前が何言ってんだ、店長。…だってこれ、フェアのノベルティですよ?んな無茶な…」


「そうだ、それに大体…200個もストラップをどうするつもりなんだ」


「……俺に命令するな」



口を尖らせて不服そうな顔をする店長に、ペンギンさんと二人こっそりため息を吐いた。


ホントにもう、子供みたいなんだから…。

しょうがない人だなぁ…なんて思いつつもどこか憎めない店長にクスリと笑いを零せば、気に障ったのか手加減なしでほっぺたを引っ張ってきやがった!!




「っ!いひゃいひゃい!ひょッ!らめてっ!」




「チッ…うるせェ奴だな。…ほらよ、お前には1個やるよ」




ペチリとベポストラップでおでこを叩いた店長が鼻先でニヤリと笑ったもんだから、不覚にも胸が跳ねてしまったのは…秘密だ。



「…ぅ…ありがとう、ございます…」



あぁもう、これだからバイト辞められないんだよ。
たまに優しいとか、店長はずるいなぁ!



「……で、残りの199個はどうするつもりだ、店長」


「……」


「…あ…とりあえず私、シャッター上げて来ま〜す…」



そんなこんなで今日も私はガキっぽくてセクハラ魔人な店長のご機嫌を窺いつつ、何とか頑張って仕事に励んでいます。





ベポ大好き変態セクハラ野郎
それがうちの店長です




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