セクハラ その5 「おーい、ローいるかー?」 「あ、ルフィ君。店長なら事務所にいると思うけど…」 「おう、ありがとな!ナマエ!」 このグランド商店街の外れ、喫茶 火の鳥が入っているビルの2階にある探偵事務所――そこの所長であるエースさんの弟が、この麦わら帽子がトレードマークのルフィ君だ。 一応ルフィ君もお兄さんの仕事の手伝いをしていると聞いてはいたのだけれど。 私が見かける時は大抵何かを食べているか、商店街のお店を破壊しているか、オオクワガタを捕まえているか…のどれかだった。 そのルフィ君が今日は似合わぬ茶封筒片手に、店長を訪ねて来たのだからそりゃびっくりした。 一体何の用だろうかと、店舗奥の事務所に向かって駆け出す元気な後ろ姿を眺めていると―…タイミングよく現れた店長。 「何だ、騒がしいと思ったら麦わら屋か」 「ロー!エースに頼んでた写真、持って来たぞ!」 「ああ、早かったな」 (…写真?って何だろう…) エースさんちの探偵事務所は"探偵"とは名ばかりで、実質は依頼人からの要望ならどんなことでも叶える何でも屋さんだ。 そんな"何でも屋さん"に"あの店長"が依頼したモノとは一体… 訝しむ気持ちが無いと言えば嘘になる。しかし真っ向から疑ってかかるのも人としてどうなんだと、自分に言い聞かせつつコッソリ二人の様子を窺えば。 封筒から取り出した写真をニヤニヤ眺める店長の姿に、思わずゾッとした。 何アレ、あの顔ヤバすぎる…確実に何らかのモザイク処理が必要な気がするんだけどどうしよう。 え、あれ?ていうか、ちょっと待って待って。 何枚かの写真を交互に眺める店長の手元、怖いもの見たさで確認したそこで見つけたのは―― ……私の写真、だった。(もちろん隠し撮りのな!) 「こ、こらぁあああ!ちょっ!な、なにっ、何持ってんですかそれぇええ!」 タックル覚悟の全速力で、慌てて店長のもとへ向かえば。 「何って、ナマエの写真に決まってるだろう」 「え、何でそんなに普通なの?ちっとも悪びれてないの!?」 「可愛く撮れてるだろーナマエ!エースはカメラの腕もバツグンなんだ!しししっ」 「る、ルフィ君は黙ってて!!」 ぴしゃりと言い放った私に、大きな目をさらに真ん丸にさせたルフィ君の動きが止まる。というか、私が出した大声に固まっている。 「…あ、あの、ごめんなさい…」 「フフ…照れてるだけだよなァ?ナマエ」 「そうなのか?…ナマエ、イヤじゃなかったか?」 くぅーんと寂しそうに鳴く捨て犬のような瞳でルフィ君に見つめられれば、嫌だなんて言えるワケない。 曖昧な笑みを浮かべて大丈夫だよ、と告げればパァッと表情を明るくするもんだからそれ以上何も言えず、代わりにこっそりと店長の腕を抓ってやった。 特製ブロマイドは5枚で3,000円 2011.6.4 |