セクハラ その3




「ナマエ、そろそろ昼休憩に行って来たらどうだ?」


「え?…あ、もうこんな時間。じゃあお言葉に甘えてお先に失礼します」


「ああ、気を付けてな」



今日は特売品のトイレットぺーパーが売れに売れていて、朝から品出ししてはすぐに無くなり…の繰り返し。

倉庫と店頭を行ったり来たりしているうちに、気付けば時計の針がとっくに真上を過ぎていた。


気を利かせたペンギンさんが声をかけてくれるまですっかり忘れていた空腹も、意識し始めると途端に我慢出来なくなってしまう。



「今日は何食べようかな…」



マルコさんちの喫茶でナポリタンもいいし、ちょっとリッチにサンジさんのレストランでお得なランチコース……は、ダメだ。給料日前で財布の中がかなり厳しいんだった。我慢、我慢。



「うーん…今日はやっぱ、あそこかな」



きゅるきゅると小さな音を立てるお腹を撫でながら、お財布片手に向かったのは――



「あら、いらっしゃいナマエ。何にする?」


「ナミさん、こんにちは!アメリカンバーガーセット一つお願いします!」



商店街の中にあるポップでアメリカンな外装の此処―…『FRANKY's DINER』は、ボリューム満点のハンバーガーやサンドウィッチが安価でお腹いっぱい食べられる、私のお気に入りのお店だ。



「よォ、ナマエ!飲み物はコーラでいいか?」


「うん!ボニーちゃんありがと!」



料理が美味しいのはもちろんのこと、何と言ってもスタッフのナミさんとボニーちゃんがセクシーで可愛い。

ナイスバディな二人が身に着けるピタッとしたTシャツとミニスカート、フリル付きのエプロンという制服は、この商店街の男性陣からの評判も高いらしい。(ちなみにこれはあのエロ店長の情報だ)



「アウ!来たな、小娘!ゆっくりしていけよー」


「あはは、は〜い」



それに、リーゼントを櫛で撫でつけながら声をかけてくれる、オーナーのフランキーさんも気さくで面白くって。ここへ来るといつも元気になれるんだよね。



「はい、お待たせ!」


「わーい、美味しそ〜!いっただきま、」


「…で?お隣の店長さん、ご注文は?」



いつものカウンター席へ座って、ナミさんに差し出されたバーガーに齧り付こうとした、その瞬間――

視界の端に映った、見慣れた黄色と黒のコントラスト。不健康そうな隈の下でニヤリと歪む形のいい薄い唇。



「……げっ。何でいるんですか、店長!」


「フフ…野暮だな。お前の隣にはいつも俺が、」


「さっむ!やばい、何か鳥肌立った!ぶわーって!」


「おい愛の言葉はちゃんと聞け、ナマエ」


「あら、随分と愛されてんじゃないの」


「やーめーてー!ナミさん面白がってないで助けて下さいよぉ…」


「別にいいけど、お金取るわよ?」


「鬼っっ!」



せっかくの休憩時間が隣に座るニヤニヤ顔の変態のせいで、ちっとも心休まるものにならない。むしろ身の危険さえ感じる羽目になる。何故だ…。



「おい、食わねェのか?」


「…食べますけど、そんな至近距離でじっと見られてたら落ち着きませんって」


「遠慮すんな、その可愛いお口を精一杯こじ開けてご馳走にありつくナマエの姿をしっかり目に焼き付けてやるよ」


「気持ち悪い言い方しないで下さい、吐きそう」


「あ?大丈夫か、そりゃマズいな…よし、ボタンを緩めて…」


「させるかぁああああ!」



私の着ているブラウスの前ボタンをいそいそと外そうとする手を叩き払って、思いっきり睨みつけてやれば。

ちょっとしたアメリカンジョークだ、そう怒るな。とか何とか言ってるけど、いや目がマジだった。


ていうか、やれやれ…って感じで両手を上げるポーズが死ぬほどムカつくんだけど。

そろそろこの人、殴り倒してもいいかな?いいよね?ね!?






お昼休みはウキウキ、君ウォッチング!
…いや、ていうか仕事しろ!!







2011.4.3





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