番外編3 バレンタイン




今日はバレンタインデー。我がハート薬局でも2月に入ってから店頭にバレンタインコーナーを作っている。


え、薬局なのに何でバレンタインかって?

チッチッチ、甘いな。うちみたいな小さなお店は価格競争に巻き込まれてしまっては、到底太刀打ち出来やしない。

他店舗との差別化を図る為にも、消費者の目に留まるような仕掛けが必要なのだ!


ちなみに現在エプロン姿のマスコットキャラクター・ベポが『バレンタインに大好きなあの人へ愛情一本チ●ビタドリンク!』なんて書かれたボードを掲げて店頭アピール中。


何でバレンタインに栄養ドリンクだよ…とツッコミたい気持ちは多々あったが、あのやる気のない店長が思いのほか楽しそうに準備してたもんだから、そっとしておいた。

ペンギンさんがちゃんとベポ人形の裏にお菓子コーナーも作ってたし、たぶん大丈夫。


――だが、しかし。


別にそんな特設コーナーなんて無くても湧き出るほどお客さんがやって来るんじゃないの?とか思うのは、私の気のせいだろうか…。



「あのー…ペンギンさん、アレって毎年恒例なんですか…?」


「ああ、そう言えばナマエは初めて見るんだったか?」


「はい…てか、店長ってモテるんですねぇ」



隣に立つペンギンさんは何でもないことのように言うけど、今店内に二つあるレジのうち店長が立っている一つには二メートルくらいの列が出来ている。


並んでるのは女子高生に、大学生からOLさんまで、全員女だ。

みんな片手に買い物カゴ、そして何故かもう片手には綺麗にラッピングされた包装紙を持っている。明らか、バレンタインの贈り物だ。


ていうか店長も店長だよ。いつもならほとんど調剤室に篭りっきりで、店頭のレジ打ちなんて頼んでもやってくれないというのに…!

何、今日に限って嬉々としてレジ打ちに精を出してるんだ。この変態クマ野郎め。



「どうした、険しい顔して。ヤキモチか?」


「まさか!冗談やめて下さいよっ!」


「はは、ナマエがヤキモチ妬いたなんて知ったらローの奴、大騒ぎだな」


「もー!違いますってば!!私、ストック出ししてきますっ」



何だかそのまま其処に居てもロクなことにならない気がして。からかってくるペンギンさんから逃げるように倉庫へ向かった。


妙にイラついた気分を持て余したまま、品出しに集中していると――ふいに鼻腔をくすぐる、薬品臭。

視界に入ってきた白衣から伸びるジーンズに包まれた長い脚が音を鳴らしてすぐ傍に立ったのは分かったけど、作業の手は止めてやるもんか。



「よォ、何拗ねてんだ」


「…はっ?いつ、どこで、誰が、何時何分何秒、地球が何回回った時に、拗ねましたか!?」


「クク、ガキかよ。俺が女共にチョコ貰ってんのがそんなに嫌だったか、そーかそーか」


「ちょ、何勝手に都合よく解釈してんですか!断じて違うから!」


「あー分かった分かった。ほら、貰ったチョコでチョコフォンデュやろうぜ」


「溶かす気満々か!店長サイテー」


「どうせお前はチョコなんて気の利いたモン用意してないだろうからな。可愛いお前をチョコフォンデュにしてやろうと思ってな」


「ぎゃっ!何というおぞましい計画!!だからわざとレジに立ってチョコ集めてたんですか!?」


「そうだ、悪いか。ほら、事務所行くぞ!この間ネットで注文したチョコフォンデュセットも今朝届いたところだ」



刺青の刻まれた思いの外逞しい腕が、有無を言わさずズルズルと私の身体を引き摺って行く。



「ちょっ!ま、待って待って!コラ!はーなーせー!!」






Happy Valentine's Day







それから後のことは思い出したくもない。

溶けたチョコが意外と熱かったことと、ベタつく感触と甘ったるい匂いがなかなか取れなかったことだけ、言っておこう。








2011.2.5





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