終業のチャイムが鳴って皆帰り支度を始める。
ガラリと戸を開ける音が響いて視線が戸に集まる。
そこには上級生である男が立っていた。
何故ひと目で上級生かわかるというと、彼がこの学校の有名人だからだ。
遠野王司。名前の通り王のような男だ。
自由気ままだが自分の意思を曲げない。
そんな性格のため突っ掛かってくる人間はたくさんいたが簡単にはいなしてしまい、気付けば有名になっていた。
また名前に劣らず外見も調っているから余計に。
その有名人が下級生のクラスに現れるのはいつものこと。
「りん、帰るぞ」
「は、はい!」
戸の視線がクラスの1人の少年に向けられる。
皆の視線にさらされてもたつくのはクラスでもいるようないないような存在感の少年、古井麟太郎。
接点を感じない2人だが、遠野はほぼ毎日古井を迎えにくる。
クラスメイトは何故遠野と知り合いで仲が良いのかと古井に聞いてみても古井は曖昧にしか答えない。
謎の関係から学校でも有名な2人になっている。
不可侵領域のような2人が出ていくまでこのクラスはなんともいえない雰囲気が続く。古井は早く出ていこうと努力しているのがわかるのだが遠野は気にせず古井を眺めているため古井は緊張からまたもたついて2人が退出までに時間がかかる。クラスメイトは息のつまる時間が長引くのだ。


漸く息苦しいクラスから離れて古井はホッとする。
クラスメイトが自分を腫れ物のように見ているのはわかっていても気がいいものではない。
入学して一年目のころはそれなりに友達もできたし普通の学校生活を送っていた。
二年目のクラス替え。
仲の良かった友達ともわかれ不安もあったがまた1から頑張ろうと思っていた矢先、廊下でたまたますれ違った男から目が離せなかった。
固まる古井に気付いた恐らく上級生であろう男はゆっくり笑うと古井の頭を撫でて通りすぎていった。
その男が遠野であった。
次の日から遠野は古井を迎えに来てクラスは軽くパニックになった。
あの遠野がこのクラスになんのようかと。
遠野は軽く教室を見渡して古井を見付けると、クラスの奇異の視線に構わず古井に近づくと一言「行くぞ」と声をかけてさっさと出ていってしまった。
それからは古井はあまり覚えていない。
気付けば遠野についていっていた。
それから遠野の名前を知るのに一週間はかかった。
『麟太郎…』
前はまだそう呼ばれていた。
有名人が目があっただけの平凡に何の用かと怯えていたが、いつのまにかただ一緒にいるだけの遠野が友達のいない古井は少し嬉しかった。
流されるままに遠野とキスをして体を繋げて。
呼び方も麟太郎からりんへ。
段々遠野がどういう人間かわかるようになって、束縛されて酷いことをされても古井は遠野に逆らえなかった。
ただ遠野のそばにいたい。
他の何よりも遠野を優先しなければいけないとまるで本能のような動いていた。
「その、傷どうした?」
古井は昔の事を思い出していたらいきなり首筋を指でなぞられてびっくりする。
「くっ、驚きすぎだ」
「すみません…」
余程古井の驚き方が面白かったのか今日の遠野は機嫌がいい。
「これは昨日弟と喧嘩したら噛まれて…」
「その年で取っ組み合いか?程ほどにしろよ」
古井の嘘に気づかないくらい機嫌はいいらしい。
「遠野先輩、何かいいことありました?」
何気なく聞いた質問に遠野は「今度な、」古井の頭をくしゃと撫でる。
「りんは大学行くのか?」
1つ上の遠野はもう大学も決まり自由の身だ。
次は古井が受験なのだが、平均的な学力な古井は悩んでいた。
遠野と同じ大学に行きたいとは思うが学力が雲泥の差。まず難しいだろ。
なら別の大学か就職か…。
真剣に悩む古井にまた遠野が笑う。
「進学しろよ」
遠野が何を思っていた言ったかは知らないが今ので古井の進路は決まったようなものだ。
「そうしようかな…」
ん、と遠野は古井の目元に口付けて囁く。
「大学行けばたくさん会えるだろ」
大学に行っても遠野との曖昧なしかし切れない鎖に繋がれた関係が続く。
その未来に酔いしれてしまう。
「ずっと、離さない」
遠野の声が脳内に響く。
麻薬のように古井を支配して離さない。
古井が呆けていたらいつの間にか家の前。
いつも遠野は古井を家まで送ってくれる。
古井は頭を下げて家に入っていく。
「またな」
「はい、また明日」
ガチャリと戸が閉まった途端あまり鳴ることのない携帯が震える。
新着メールの表示がディスプレイに写っている。
メールを開けば知らないアドレスから。
そのメールに古井は固まる。
『今のが君の王子様?』
件名もないたった一文だけのメール。
古井はメールを削除すると窓から外を覗く。
誰もいないいつも通りの近所。
でも古井の悪寒は止まらなかった。



(絶対に離さない)


[ 3/11 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -