現パロ 次屋
  


※次屋が最低な奴かも




『本日もまた随分とキレイな眉間のシワですこと』



口元を僅かに綻ばせながらぽつりと溢した言葉は閑静な喫茶店に反響した。

多分今の彼からしたら結構ムカツクであろう表情と声音を兼ね揃えた私に対して、浅く彼はため息をつく。



『また面倒な女と当たっちゃったの?』

「そ、しかも典型的な」



歪めた口元のまま(それでも様になっている)頼んだアイスコーヒーを口に運ぶ次屋三之助という男。

それに合わせるようにホットココアを軽くかき混ぜてから飲む私。


一言でそんな私達の関係を表すのならそれは“腐れ縁”である。

男女間にはたしてその言葉が通じるのかは分からないが、何となく気が合う私達は時々こうして会って日常の不満を溢す。


喉を潤したのか彼は少々乱暴にグラスを置き、忌々しそうな感情を滲ませた声で人語を造りだした。



「そいつさ、一回寝ただけで彼女ヅラしやがるんだよ

勿論俺にそのつもりはないから、的な事を言ったら私を玩んだとか責任取れとか好きなのにとか…

とにかくめちゃくちゃ面倒くせぇの」

『まあ、それなりに一緒にいたしね

確か3週間だっけ?』

「あー…そいつとっくの昔に別れたわ」

『えっ、じゃあその子はどれくらいなの?まさか2、3日とかじゃないわよね』

「会ったその日だけど」



少しの間。

あー、と言う音を漏らして彼を見やる。



『ナンパかよ…』

「ちげぇよ、向こうから

結構、顔可愛かったしスタイルも良かったんだけど…相性がなあ……」

『そんでさっさて捨てたら面倒だったと』

「そゆこと」



先程よりも幾分か柔らかくなった顔つきは確かにかっこいい、そりゃあ腐れ縁の私から見てもだ。

性格は難ありだけど。


まあ、しかし今回の彼女はまた相当おつむがない子だったようで、初対面である男に簡単に股開くのもどうなのだろうか。

呆れた声でそう言うと次屋は表情を変えずに「こっちとしてはバカな女の方が楽だけどな」としれっと言いのけた。

はいはい流石イケメン。



『でもそんな感じのは過去にも何回かなかったっけ?』

「あーそれが今カノにバレて更に面倒な事になった」

『やっば、リアル修羅場じゃん』



遭遇したくないわー、と大袈裟に肩を竦める傍らシフォンケーキも頼もうかと緊急脳内会議を行う。

あ、駄目だ、最近お腹まわりヤバイんだった。



「にしてもお前よくこんな話聞いてくれるよなー

俺だったら絶対引く」

『まあ悪い男に引っ掛からないいい勉強になるし、反面教師ってやつ?』

「あれお前彼氏いないの?」

『どっかのお股が将軍様な人と違ってここ数年フリーですよ』

「えっ、じゃあ立候補したい」

『それは勘弁』

「何でだよ、俺お前のこと結構好きだけど

面倒じゃないし、気が楽だし、見た目も良い方だし」

『万年発情期にすがる程落ちぶれてないわよ

と言うより次屋の行動がやだ』

「お前浮気は許さない派?」

『別に浮気は気にしないよ、寧ろそれで仕事とかに身が入るなら推奨するし

でも浮気をするならその事実は生涯墓ん中に持ってくぐらいの覚悟でしてほしい、隠ぺいも出来ない輩がキャバクラとか売春とかに手だすなんて舐めてる

浮気を絶対に許さない女も嫌だけどバレるような生半可な覚悟でする野郎の浮気も嫌だよ、私


やるなら完全犯罪をするつもりで、それが出来ないならするんじゃねぇ、って思う』



一気に喋ったから口内が渇いたのでマグカップを口につける、冷たくなってしまったココアが少し寂しい。



「お前、すっげぇ良い女なんだな」

『今頃になって気付いたの?』

「うん、今頃になって」

『灯台もと暗しってことわざを覚えておくべきだよ、次屋』

「うわー勉強になります」



グラスに入っていた氷は殆ど溶けてカランと高い音をたて、それと相成って店の扉のベルが新たな客の来訪を告げる。

頼んだココアは既に底をつき、マグカップの白い陶器が顔をひょっこりと覗かせた。


マグカップを見つめながら彼は私に言葉をはらはらと降り注がせる。



「本当に、何で気付かなかったんだろうな」



その時の次屋の哀しそうな目の色を、私は、見ていない。


(逃がした魚は大きい)

追記

2012/12/11 20:16

|