私は何でこんな状況にいるのだろうか? 思い出せ、思い出せ私、事の発端を。 私はこのシンドリア王国を統治するシンドバット王の力にほんの少しでもなりたかったが為に、(様々な幸運もあって)王宮に務め初めることができた。 その忠誠心から生まれる膨大な努力が認められ八人衆の一人であるジャーファル様の直属の部下になることもできた私。 そのジャーファル様の部下になるという事は同時にシンドバット王の部下になったも同然な訳でして。 でも部下と言ってもジャーファル様のお手が空いていない時に王様に書類を運ぶ程度のものなのだが、そうだ本来ならば他人に近い関係なのだ。 それなのに、 『っふ…』 何故私の足をシンドバット王が舐めていらっしゃるのだろうか。 普通に考えて上司に当たる人物ましてや国を統治する王が平民であるただの小娘の足を舐めるなんて事はまずあってはならない。 例えそれが王の趣味であっても。 私には王様がはたしてその様な趣味をお持ちになっている人物なのかを判断する材料を持ち合わせてはいない、だがこの状況が非常にマズイのは分かる。 と言うより、ジャーファル様に見つかって説教被るのは何としてでも避けたい! どのような手を使っても最悪の状況を回避せねば、と心の中で秘かに決心をしたその時背中が粟立った。 『っ!』 「考え事をする位の余裕はあるみたいだな」 民に向ける様な、たおやかな笑みを浮かべつつもその声は低く獲物に狙いをつけた肉食動物が唸るが如く迫力がある。 と言うより王様が話す度に息が足にかかりまして…すごく恥ずかしいと言いますか、くすぐったいと言いますか。 足に優しく添えられた男性らしい無骨な掌とか、羨ましい位長めの睫毛に隠された瞳とか、広い肩に流された絹のような髪の毛だとか。 流石は数多の女性達を虜にするシンドバット王と言うべきか、その仕草一つ一つに見惚れるばかりだ。 そうすると自然と心拍数が上がってしまうのが人間の性らしく。 溢れそうになる声を押し込めようと口元を掌で押さえても、熱を帯びる頬を隠せてはいないのだろう。 そんな私を見ながら足の指の間をゆっくりと舐めあげる王様の艶やかな表情に訳もなく肩が震えて、同時にそんな自分に嫌悪感が込み上げる。 嗚呼、この命よりも大切な王様の前で私はなんとはしたない姿を晒しているのだ。 汚らわしい、穢らわしい、ただの雌の私。 自己嫌悪からか羞恥心からかじんわりと滲む目元が煩わしい。 「…もう駄目だな」 ぽつりと目の前にいる私にもうまく聞き取れない程の声量で言葉を産み出した直後、私の体はぐらりと傾いた。 床に打ち付けられると考え、私を襲うであろう痛みに覚悟を決めながら強く目を瞑る。 しかしながら痛みは何時まで経っても来ず(いや、来てほしい訳じゃないけど)一度は閉じた瞼を恐る恐る開けてみた。 するとどうだろうか。 私の目の前には我等がシンドバット国王様が私を見下ろしながら…その、組み敷いていらっしゃったのだ。 『王様?』 「俺は我慢強くない性分だったようだ」 なんて低い声で言われてしまえば不思議と罪悪感も羞恥心も消え失せてしまうのだった。 追記 2012/12/05 17:42 |