人でなしの恋



初めて目を醒ましたのは冷たい床の上だった。流されるような落下するような感覚で長い微睡みの世界から抜け出した私を見下ろしていたのは長い黒髪の少女だった。

私は生まれたときから完成していた。戦争のためだけに生み出された
造り物の命だったから、私たちの愛と言うものも所詮造り物だったのかもしれない。造花のような、


彼と過ごした時間は半世紀にもなる。私を見つけた張本人吸血鬼アーカードが目覚めるまでの数十年間。身体的に歳を取らない私にとっては半世紀なんて直ぐだったのに、彼は着々と歳を重ねていった。
彼はどうだったか知ることもできなかったけど私は確実に彼を愛していた。
長くて細い指が糸を手繰る姿や艶やかな黒髪はいつまでも変わることなく美しかった。
腕を絡ませたときの不機嫌そうな顔と憎まれ口も、嫌がりながらも腕を振りほどこうとしないところも


「だから、とても今驚いてるの。でも懐かしい貴方に最期に逢えてよかったわ。」

目の前の青年は、愛しい人は、執事は、彼は、ウォルターは微動だにせず私を見据えた。

「これが、最後ね。貴方死んでしまうもの。」

鼻先が付く程まで近付くとウォルターの低い息が微かに鼓膜を揺らした。私は寒色の瞳が細められるのを、見逃さず口付けた。

背後でアーカードが低く笑う音が聞こえた。

「さよなら、ウォルター。」

美しい顔が少しだけ歪む。
かつて、ずっと昔のこと。何があっても最後の最後に折れてくれるのはウォルターだった。喧嘩をしたときも、どんなに私に非があっても、いつでも譲ってくれたのは彼だった。でも、もう駄目だ。私にウォルターを動かすことは出来ない。ウォルターはもう一歩も私に譲ってはくれない。

「さようなら、精々楽に死ねたら好いわね。」

踵を返して飛行船に乗り込んだ。私も終わらせなければならない。私自身の因縁を、



「もう私のものだ、私だけの。私だけの愛しいあるじと私だけの恋しい下僕だ。あの女でさえももう私のものだ。もうおまえのじゃあない!!」


凄まじい爆発音とアーカードの声が聞こえる。もう、私は彼のものではないし、彼も私のものじゃあない。
そう、理解したとき初めて涙が零れた。






Atgk

二ヶ月ぶりの更新ですね。久し振り更新したかと思ったらこの駄文。うんこですねしねば良いと思います。
ヘルシングめちゃくちゃはまってついやらかしました。すいません。
題名は江戸川乱歩の短編小説から頂きました。もともとは長編の予定だったんですけどヴァニラさんの長編がまだ完結してないので短編にまとめましたのでいつか長編も書きたいなと思っております。
ここまで読んでくださりありがとうございます。

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