(あ、一番後ろだ)
これで今年の運をも使ってしまった気もする。
出席番号順になっている自分の席は一番後ろで、実にありがたい席だった。
小学校から繰り上がり、数人知っている顔はあるもののやはりほとんどが初対面だった。
特に雷門はサッカーの名門であるが故、それ目当てでも入学してくる生徒がいる。
そんな中俺は家から近いという理由で通い始めた。学校の雰囲気は非常に明るくて俺は内心浮くか心配だった。
担任は淡々とHRを進めて今日はこれで終わりにします、と言い早々と教室から出て行ってしまった。
なかなか怖そうな担任だな、なんて思いざわざわした教室から俺も早く出て行こうとした。

「ン……?もう終わっちゃた?」

ヘッドホンを耳にかけようとしたときにふと前の席から声がした。おそらく寝ていたであろう、彼は机に突っ伏したまま眠そうな目をこすっている。
入学初日から初めてのHRで寝るなんて大した度胸だ。すると彼は親睦を深めようと自己紹介をしあっている数々のグループを見て口を開いた。

「あちゃー、完全に乗り遅れたぁ……」

きょろきょろと教室を見渡す彼、そして帰ろうとしていた俺とバッチリ目が合ってしまった。俺は目をそらしたがもう遅かった。

「オレ、浜野海士!前後の席だね。よろしく!」

これが浜野との出会いだった。

「君の名前は?」
「速水鶴正」

極力人と接したくない派の俺は、見事に簡潔に名前を言った。

「ほう。速水って言うんだ〜これからよろしくね。早速だけどさあ、速水ってサッ……あれ?はやみ?」


「ねえ速水〜待ってよお」

廊下までパタパタついてくるやつがあるか。
おそらく俺の印象は最悪だったはずだろう。別に人間が嫌いなわけじゃない、このようにあきらか明るい人気者タイプとはあまり気が合わないんだ。

「ねえ、待って、一緒に帰ろうぜー?」

俺は厚い眼鏡の奥からじとっと彼をにらむ。

「……浜野君、俺」
「速水釣り好き??」

は?いきなり何を言っているんだこいつは。

「今日の目標は雷門で釣りにいっしょに行く仲間を見つけることだったんだよねー」
「釣り……ですか」

釣り……フィッシングのことだよな……?

「今から、一緒に行こうぜ!」

……なにこれ、満面の笑みで……こんな無茶苦茶な奴は初めてだ。
これは新手のカツアゲだったりするのか?逆に怖い。

「……強制なんですか」
「速水、釣り嫌い?」

何故かしゅんとする浜野の顔。俺はしかたなく了承した。

「ほんと!?やったあ!この中学の近くにいい釣堀があってさあ〜」

ぱあっと華やぐ彼は嬉しそうに俺に釣りの話をする。
本当に、変な奴だと思った。