*性感染症が絡んだ暗いお話となります。
気分を害す恐れがありますのでご注意ください。








「よう、染岡」

ひらりと見せる笑顔に染岡は懐かしい気分になった。

「ドモン……」

ソルトレイクの某ホテル、染岡は約数十日の滞在をしていた。三日後には此処で公式戦が始まる。そんな時土門は染岡の泊まる部屋を訪れてきた。

「よく此処が……いや、お前変わりないなあ」
「オハイオに自宅があるんだ。だけど俺も今日からこのホテルのすぐ先に滞在することになった。イタリアチームが来てるって聞いたからお前がいるんじゃないかと思って……」

土門は持ってきた紙袋から酒瓶をいくつかチラつかせた。二人は久々に会った感動を胸に、晩酌を交わすことに決めた。

「なんだ、本当に変わりないんだなあ」
「変わったのなんて円堂くらいだぜ。雷門と普通に結婚しちまうんだからなぁ」
「ああ……」

2人は昔話に花を咲かせていた。刹那、染岡は土門の胸中を見透かすようにこう言った。

「なあドモン、なんかもっとあるんじゃないか」
「なにが」
「俺に言うことだ。おまえ、何か様子が変だ。ただ会いに来ただけじゃないだろう?」

正義感の強い瞳は何かを悟ったように土門に語りかける。

「はは、するどいや……」

ドモンは、暫し首をもたげてこう言った。

「もっとお酒の力を借りて言うはずだったのに。

……イチノセが体調不良を訴え入院した」
「イチノセが……?」

染岡は混乱した。
それこそ一之瀬は学生時代、難病を患いサッカーをすることさえ危うくなりかけていたが数年後にそれも克服し、数々の試合でフィールドの魔術師の名をとどろかせていた。
そんな一之瀬が、入院とは何故……疑問符が染岡の頭を飛び交った。

「まだマスコミは知らない。俺のクラブメンバーにしか知らせていない情報だ」

一之瀬が病気で欠場。このニュースが放送されればアメリカはショックだろう。いや、世界中にも彼を応援するファンは多い。
三日後にホームで試合を待ち望むアメリカにとってこれは底知れないダメージだ。

「なんで……イチノセは……」

そう染岡が呟くと土門は顔を悲しそうにしかめた。

「染岡……どうすれば良いと思う?」

消え落ちるような声で絞り出す、弱々しく悲しい言葉が静まり返った静内に響いた。

「イチノセは、T細胞が減少している」

染岡の首筋に嫌な汗が流れ落ちる。

「俺は昨日、初めて知った。……イチノセはHIVに感染している」

手に持っていた瓶が汗で滑り落ち、派手な音を立てて床に転がった。
瞬間、悲しみに自分の肩を抱く土門を見た。染岡はもう一つの意味を感じた。