気が付いたら、プレーヤーから流れる音楽は大体決まっている。
新しく知るバンドやアーティストもいいのだが、人には思入れ深い曲が必ずしもあると思う。
それは、詩が溶け込むように体の一部になる。いつからだか俺はこのヘッドフォンで騒音をシャットアウトするようになった。
「なーに聴いてんのっ」
ヘッドフォンが取られ力強いメロディから一転、鼓膜はある男の声に震えた。コイツは浜野海士で、閉ざした俺の殻に土足で入り込んでくる人物だ。
所詮こじらせた厨二病の構ってちゃんな俺、コイツの存在に縋ってしまう。彼は俺が大好きなバンドの大好きな曲と似ていた。
「音楽ばっかじゃなくて俺にも構ってよ〜」
ぷくりと膨らませた頬が赤くなっている。テレビには10連勝の文字。格ゲーに打ち込んでいた証拠だ。
「お、凄いじゃないですか」
「ふん、速水が構ってくれないからさぁ、俺ハイスコアばっかだしーこのままだと世界新記録いっちゃうよ?」
拗ねたような口調に俺はごめんなさい、と一言。
すると浜野は笑顔で俺の頬に手を当てる。
リップ音を立て何回もキスをされ、誇らしげにこう言われた。
「ねぇ、俺音楽に勝ったっしょ?」
音楽と張り合う彼がなんとも可愛くて、俺も笑った。
「浜野と音楽を同じ天秤で量ることなんてできませんよ」
主を無くしたヘッドフォンから漏れる音はやっぱりあのベストチューンで、君の言葉もやわらかい感触もメロディと一緒に俺になるんだよ、と思った。
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