※南沢さんは雷門にいる設定です




この時期になるとどこに行っても目につく。
ピンクのラッピングにデコレーションされたチョコレート。
それを見るたび、そしてその日が近づいてくるたびに俺の胸はぎゅんぎゅんする。
板チョコは買った。
ココアパウダーも生クリームもラム酒も。
これで準備はばっちりだ。


「……んで、30分冷蔵庫」

扉を閉めて一息つく。
喜んで……はくれるよな絶対。

『美味いど!南沢はお菓子作りもできるんだな!』

チョコを食べて笑顔になる天城を想像してにやけた。
正直今まではただ貰うのみだったバレンタイン。
だが、今年は違う。
女々しく本命チョコを手作りしなきゃいけない。
こんな気持ちは初めてで女子の気分が分かった。
今まで自分あての本命チョコを無下に扱っていた事が申し訳なくなるほどに。

バットに冷え固まった種を均等に丸くまとめる。
ココアパウダーを振り掛ければそこにはレシピ通りのトリュフチョコが出来上がった。

「……できた」

もっと手作り感を出すべきだっただろうか?
女子のような可愛らしいデコレーションをした方がいいだろうか?機械的に並ぶなんとなく味気ないそれに俺はもんもんとして、これは料理が得意なあいつに聞いてみよう。
と、思わず携帯を手にしてボタンを押してみた。


「お前が……手作りチョコとな」
半ば馬鹿にするように奴の口が笑う。
俺が呼んだのは、雷門イチの料理上手の三国太一だった。

「わっ、笑うな……」
「悪いな、つい……お前が、手作りチョコ……天城のために……クッ」
「笑うなー!」

久々に会って、しかもこうして頼ってやるってのに何だその態度は!

「わかった、わかった。なんだ何が作りたいんだ?」
「……作ったんだけど、なんか微妙で」

なにか腑に落ちないが、俺は作ったチョコレートを出した。

「おっ?上手くないか?」
「個性が無いのがな、なんかな」「うーん……ひとつ貰ってみてもいいか?」

俺はひとつを三国に渡し、口に入れたのをおずおず見た。
食べた三国が笑顔になって心底ホッとした。

「うまいじゃないか!南沢!」
「!?」

俺は掴まれた手に目をぱちくりさせた。

「何故そんな大袈裟に感動する三国よ」
「いやいやうまいぞこれは!お前もひとつ食ってみろ」

そんなにか……?
俺は形の良いトリュフチョコを一つ口に入れてみた。

「……」

うまい。
凄くくちどけがよく、甘さが控えめで美味しい。
今の気分はもうゴディバ職人だった。

「俺天才じゃん。むしろ売ろう」「いやそこは天城にやれよ!これ革命だぜ。お前料理上手いんだな」

そうして俺はそのまま箱に詰めることにした。
三国にメッセージカードを書くことをオススメされて何度もペンを持ったが書けなかった。
ぶっちゃけこの作業はチョコを作るより難しかった。
そうして数時間後、俺の本命チョコ作りが終わったのである。


「神童もどうするか…」

コーヒーを飲みながら雑談をしていると、三国の口から神童の名前が出た。
2人は、もう結構な期間付き合っている。

「おまえら、去年のバレンタインはどうだったんだ?」

そういえば、立場的には神童が三国にあげるって感じだが。

「去年は神童に手作りチョコを貰った……」
「へえ意外。あのお坊ちゃん料理できるのか。味は?」

味は、と聞いたとたん三国の表情は苦虫を噛み潰すかの如く険しくなった。
俺は神童が料理オンチだということを察した。

「……今年は俺が作ってあげようと思う」
「ああ……そうしろ」

それから俺はその神童のチョコの話を気の毒になりながら聞いた。こうして、明日に迫りくるバレンタインデーを目前に自分への不安と三国カップルへの期待が高まり前夜は過ぎていった。




へ続く