ねがぽじかっぷる9

積もった桜の花びらを春風は巻き上げる。
木々はもれなく全てが若葉色に染まりそうになっていた。
朝もやの中で木間から見える恋人に思わず口元が緩んだ。

「おっはよー!」

ぶんぶんと手を振ってこちらに向かってきた。
ときめいていた俺の気持ちとは裏腹にとてつもない無邪気な笑顔をしている。

(昨日が、嘘みたいだ)

ふと、思い出す奇跡。

『俺、初めてだ。こんなに人のことが好きなんて』

そんな言葉を紡ぐ唇を思い出した。
それは、とっても幸せな科白だった。

『もう、浜野から離れません』

俺達は笑った。
静かに、それは甘く。

「あの、今日釣り行きません?」
「おっ!めずらしいね、速水から釣り行きたいなんて〜」
「そういう気分なんです。あっ、チャイム」

朝の鐘が鳴る。
今日も俺らはずっと一緒だ。
遅刻しそうになる生徒をかき分けて俺たちは走った。

「浜野より大物を釣ってやりますよ!」
「まけねぇ〜しぃ〜」

同じクラスの前後の席にサッカー部。
そんな運命が俺と浜野をくっ付けてくれた。
今となってはこの学校での目的も見つかった。
相変わらず授業中に爆睡する浜野を見て思わず笑みがこぼれる。
この幸福に満ちた胸を沈下させるのはこの先当分無理そうだった。