光を無くした彼の目に、恐ろしいという感情が脳を巡った。
衣服を纏っていない背中が粟立つ。
俺はずっとこの感覚を待っていた。

「へえーっ!抱いたんだ。その細い身体で」
「だっ……」
「しっ、答えないでよ」

ガツッと音が聞こえ、目頭に衝撃が走る。
目の前がぼやけて咄嗟に眼鏡が飛ばされたのだと分かった。
そして背中に回された手は俺の皮膚を引っ掻いた。

「こんな跡、つけちゃってさあ。俺は速水に満足してもらってるんだと思ってたよ?ずうっと。なのにこの」

迫りくる浜野の吐息を感じたのも一瞬だった。

「仕打ち……って!!」
「うっ……あ゙あっ」

ぎりぎりと肩胛骨を抉られる。
昨晩の彼女が付けた背中の爪痕はおそらく浜野によって上書きされた。

「叫ばないでよ、うるさい」

うるさい、と何度も繰り返す浜野の顔は俺の視力と涙により何にも見えなかった。
そんな目で浜野をにらむ。
挑発したかった。
もっと、もっと俺を見てくれる為に。

「はっ、情けない顔。ぐずぐず泣くなよ、汚いからね」

骨張った身体を撫で回される。
浜野の細い指が俺の尻たぶを摘んだ。

「貧相なケツに色を仕込んであげたのは俺だけじゃないの?」

そのまま、その手は前へ。

「うわ、こっちは反応しちゃってるじゃん。暴力で感じちゃうなんてやっぱお前って変態だなあ」
「…………っ」

もっと、そんな言葉を聞きたかった。
普段の大らかで優しい浜野とは違う言葉を。
俺は、浜野に罵ってもらう為に女を抱いたんだ。
壊れるほど強く、激しく抱いた。
背中に証拠を付ける為に。

浜野が俺の血が付いた指を舐め、言った。

「俺無しじゃだめなくらいに壊してやる」

その言葉も、媚薬と成り俺の耳を侵す。
朦朧とした意識の端に映った浜野の顔も、微かに濡れていた気がした。