ねがぽじかっぷる3

第一グラウンドには入部テストを受ける一年生の姿がちらほら見られた。シュートやドリブルを先輩たちに厳しい目で見られている。
張りつめた空気に緊張しながら、学校指定のジャージに着替えているときに浜野が尋ねてきた。

「速水は、サッカーやったことあるの?」
「え……」

サッカー……もちろん一世を風靡したイナズマジャパンに憧れサッカーの真似事をしていた時期もあった。
だが小学校高学年になるにつれインドア派になり、外で遊ぶのもあまりなくなった。
俊足とは言われてきたがそれもサッカーというよりは陸上に行った方がいいくらいだ。
とにかく、サッカーに関しては全くの初心者といってもいいほどだ。

「真似事、だけならあります」
「マジかあ……サッカー部に入れるんなら、一緒に入りたいよな」
「いいえ……俺はここにサッカー目的で入学したわけじゃないので」

そうなんだよな、さすがにここまで厳しそうだとサッカー部に入るのは難しそうだ。
サッカーをやるために来た浜野だけでも狭き門をくぐり抜けてほしい。

「浜野だけでも、頑張って入部してくださいよ。応援してます」
「……やだ」
「え?」
「速水と一緒にサッカーしたい」
「は、浜野」

いきなり真面目になってどうしたんだ。
顔を覗かれて真剣な表情で、初めて見るその顔に意味も分からずドキッとしてしまった。

「ってて、何言ってんだろう俺!ごめんな速水っ」

ぽかんと、何も考えられなくなった。

「でも、一緒にサッカーしたいのは本当、だから」

二人そろって、合格しような。

そう言って笑った浜野の顔はたまらなく素敵だった。

「次の一年生」
「はい」

浜野の番だ。
俺はなんとか浜野が合格できるように祈った。

先輩の蹴り上げたボールは弧を描き浜野の足元に落ちる。
そのボールをキープし、迫りくる先輩たちを浜野は軽々とかわしてゆく。
そうしてキメたシュートは思い切りゴールに吸い込まれる。
まさか、ここまで浜野がサッカーが上手かったなんて。
俺は見とれると同時に心配になってきた。
自分が、このテストに合格できるのか。
浜野と一緒にサッカーができるのか。

「うむ。では次の一年生」

俺の番だ。
緊張がピークになって頭の中がグルグルする。
サッカーてどうやるんだっけ、あの先輩がボールを蹴り上げるようだ。
打つ、打つ……怖い、急に逃げ出したくなった。
浜野みたいに高く飛べない、なら、どうすれば。

「速水!ボールを見るんだぞ!!」
「っ、浜野っ」

フィールドの外を見ると浜野がこちらに向かって叫んでいた。

「俺は合格だったああああ!速水!がんばれ!!」
「……はいっ」

ボールを見て、目線を離さなかった。
足に力を込め地面を走る。

自分でもよくわからなかった。ボールをとらえてひたすらに風を切った。
蹴ろ……俺!

「はぁああああっ」

バシッと思い切り蹴ったボールはキーパーの足の間をすり抜けコロコロとゴールの中に入った。こんなにもあっさり。

「は、入った……」
「うむ。では次の一年」

「速水!」
「浜野……!入っちゃった!」

俺は浜野に駆け寄った。
そして音無先生がやってきて俺に告げた。

「速水くん」
「は、はい」
「よかったわ。合格よ。浜野君と二人頑張ってね」
「や……やったあ!浜野……」

浜野の方を振り返ると浜野は泣きそうな顔でこっちを見ていた。

「やった……!俺雷門でサッカーできるよ!しかも速水と!!」

そして、思いっきり抱きしめられた。
ぎゅうっと。

「浜野……」

後に倉間から聞いた話だが俺たち二人は脇目も振らず数分間抱き合っていたようだ。