例えば、叫ぶことが出来ない人がいたら、その人はどうやって生きていけるのだろうか。
例えば、助けを呼ぶことを許されない人がいたら、その人はどうやって生きていけばいいのだろうか。



「何してんだよ」
「……神崎か」


あんなにも暑く肌を焼き付ける夏の日差しが過ぎ、吹きすさぶ風が日焼けで火照る肌を冷ます、そんな日だった。雨が降り出しそうな空をしている。

正門付近の池の縁に、十が座っていた。人形のように笑わない、自らは何もしない少年。いつも青白い顔を余計に青くして、全身ずぶ濡れになっている。
十は苦手だ。こいつはいつも何かを隠している。十をどう扱っていいかわらないから、こいつのことは嫌いだ。


「はっ、いい格好じゃん。びしょ濡れでよ」
「そうだね」
「水も滴るなんとやらとは言うけど、いい男っていうのは荷物まで濡れるもんなのかよ?」
「別に私が濡らした訳ではないから」
「生徒会長も大変なんだなぁ。まあ、てめぇは自ら嫌われにいってるようなもんか」
「そうかな」


やっぱり、今日のこいつは少しおかしい。何ていうか、いつもよりしおらしいし、会話もいつも以上に覇気が無い。いつもロボットか、あるいは人形みたいな、なかなか存在感のある奴なんだけど。


「……早く帰れよ。てめぇは馬鹿じゃないんだから風邪引くんじゃねえの?」
「帰りたくない」
「だからってこんなところで」
「心配してくれてるのか」
「……俺は別にどうでもいい。ただ、あいつが心配するかもしれねえ」
「そう」

そう言ったきり、十は黙ってしまった。
こうなってしまっては仕方がない。どうせこいつは、何を言ったって俺の言うことなんか聞く訳ねぇんだから。
もう帰ろう。そう思って踵を返しかけた。


「……ッおい!!」


本当に、歩きだそうとした時だ。視界の端で十が後ろに倒れていくのが見えた。別に助けたかった訳じゃない。ただ、反射神経が良すぎただけなんだ。

ぐっ、と腕を掴んで無理矢理起き上がらせると、十は完全に意識を失っていた。顔からは完全に血の気が引いているのに、身体は異常に熱い。
馬鹿だ馬鹿だと思いつつも、さすがにここに置いておく訳にも行かない。仕方がない、仕方がないから十を担いで寮の俺の部屋まで運ぶことにした。



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