校舎の傍にある金木犀が花を付けて、芳しい香りを放つようになった季節。
制服も冬服へと移り変り、彼を待つ私も日に日に肌寒さと日の短さを実感するようになった。


お待たせしました、と、彼。
すっかり薄暗くなってしまった景色とは違い、彼の髪は太陽の様に明るく輝いている。なるほど奴も気に入るはずだ。私だって、彼の宝石のような髪を気に入っている。


「すみません、冷えたでしょう」
「問題無いわ。行くわよ」


私と彼は二人で校門へと続く道を歩く。
最終下校時間だからだろうか、周りは急ぎ足で歩く生徒で賑やかに彩られていた。
私はこの賑やかさが気に入っている。心地よい騒音だ。温かみに溢れている。人の温かさの音だ。


「すっかり秋ね」
「ついこの間まで暑かったなんて嘘みたいですね。もうカーディガンが手放せない季節なんて」
「あら、秋は嫌い?」
「あー、どうなんでしょうね。俺、寒いの駄目だから」
「ああ、お前はそうね。でも私は好きよ。秋は優しいし、生き物が眠りに就く前の騒々しさも。それに、」
「食べ物も美味しいし、でしょう?」
「甘いわね、食べ物なら断然冬だわ」


コツリ、コツリ、アスファルトに鳴る二人分のローファーの音が紫色に輝く空に響いては吸い込まれ消えていく。
空気は金木犀の香り。顔を上げれば小さな橙色の花が慎ましやかに咲いている。少しばかり私より背が高い彼に目線を向ければ、金木犀の花より明るい色の長い髪が、秋風に揺られて紫色の空になびいている。


杜若、と声を掛けると、彼は何も言わずに、ただ微笑んで私の手を掴んだ。
相変わらず、彼の手は死人のように白々しく冷たい。
私もまた何も言わずに、彼の手を握り返してやる。刺すような冷たさを、魔女の炎で溶かしてやるのだ。
そして、今日は特別に私が紅茶を淹れてやろうとか、彼の夢に遊びに行こうとか、そんなことを考えながら、私は一つだけ彼に告げた。


「好きでも無い女性に気安く触れるものでは無いわ」

そして私は少しだけ温まった彼の手を離す。
ありふれたある秋の日のこと。



2011/1007
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