「どーしよー」
「……」
「ねぇどーしよー」
「……無視してんだけど」


ヘンリー学園高等部二年一組、このクラスで学園一の秀才と学園一の天才が向かい合っていた。
高等部からの編入学ながら学力テストでは上級生を余裕で越す学力を持つ京宮有と、学園の理事長の息子でモデルをこなす容姿を持つ女遊びの天才十杜若。
真逆な性情ながら、二人は一年生の時に出席番号が前後ということだけで友人となった。二人の交友は今も続いている。


「だってさ、テストで赤点取っちゃったから先生とのデート無しになっちゃったんだよ!? ありえない」
「てめぇあんだけノート貸してやったのに赤点取ったのか」
「モデルの仕事入っちゃってさぁ、勉強する時間無かったんだもん」


有は呆れたようにため息をついて、開いていた本を閉じた。

二年生に上がってから、目の前にいる友人の話題は『先生』一色になった。
有も知っている下級生の、少し気の強い女子生徒だ。彼女に従順に着き従う友人の姿は、さながら忠犬か奴隷に見える。


「ね、追試の勉強……」
「断る」
「ひっど! まだ何も言ってないじゃん!」


上目遣いで見つめてくる友人。自分が女子だったら、即答で「はい」と答えてしまうぐらいの絶世美人だ。
緩くカールがかかった柔らかい髪を頬に掛けて、首を傾げている。ああそれのなんと可愛らしく絵になる妖艶さだろうか。
彼は天然でこういう打算と確信に裏打ちされた行動をとる人物だ。
有も、自身は到底常識人と呼びがたい性格破綻者だと自覚している。しかし杜若は、それ以上の異常者。一年生の五月ぐらいにはもうそれを学んでいた。


「あ、じゃあさ! 一発ヌいてやるから。それならいーい?」
「何が悲しくて自分よりでかい男にヌかれなきゃなんないんだ」
「口でするから大丈夫だって!」
「何が大丈夫なんだよ」


この友人はどうしようもなく貞操観念の低い男で、バイセクシャル。自身の容姿を生かして、何人もの男女と身体の交わりを持ってきたらしい。所謂セックス依存性に近いものがあるのではないだろうか。
有も、こうして性行為に誘われるのは始めてのことでは無かった。

杜若がゆっくりと有に手を伸ばす。ピアノを弾いているだけあって、手入れの行き届いた綺麗な手だ。男らしい骨張った、しかし女性的な細い指。
自身がバイセクシャルである可能性云々を抜きにしても、これだけの美人が相手をしてくれるのなら頷いてもいいのかもしれない。


「……ね、お願い?」


頬に手を当てて、今度は顔を近付けてきて有にキスをしようと迫る。
有は杜若の額に一つデコピンを落とし、椅子を引いて杜若から離れた。
杜若もまた落ち込んだように笑って、椅子を引いた。


「センセーに勉強教えてもらったら? 少なくともお前よりは頭が良いだろ」
「先生一年生だよ!? あのね、俺にも男としてのプライドがね」
「男の咥えて勉強を乞う肉便器が何ほざいてんだよ」
「うー……有ってばひどいなぁ。じゃ、いいや」


杜若は中身の殆ど入っていない鞄を持ち上げて、ひらひらと手を降って教室から出ていった。
追試担当の教員を誘いに行ったのか、はたまた杜若にべったり甘い兄の元に行ったのか、そもそも見込みの薄い自分よりも他を当たった方が早かったのではないか。やはりあいつは馬鹿だと思った。

有もまた中身の殆ど入っていない鞄を持ち上げて、すっかり人気の無くなった教室を後にする。
どこかで彼は嬌声を上げているのか、はたまた組み敷いているのか、彼の知るところでは無い。



2012/1020
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