この藍色の部屋には人をおかしくする効果でもあるのだろうか。あるいは、俺がもう手遅れなほどおかしくなってしまったのだろうか。

部屋の中に鳥籠がある。藍色の壁によく映える、プラチナの鳥籠。
その中に、俺の大好きな人が入っている。
楓、俺の兄貴。俺の家族。俺の恋人。俺の、俺だけの恋人。
栗色の髪にはべったりと血が付いて、錆びた赤へと色を変えていた。ワイシャツしか纏ってない細い身体には、目も当てられないような傷が数え切れない程。白い肌に鎖と皮が擦れた後が赤くついている。

全部俺がやった。俺が殴って、殴って、蹴って、ぶつけて、閉じ込めた。
最初は些細なことが原因だった。楓は謝ってくれたのに。


「……かえで」


楓の目には確かに俺への恐怖が浮かんでいた。翡翠色の瞳に涙が滲んでいる。

掛ける言葉が見つからず、ただ黙って『梨』の螺旋を緩める。今回は『梨』を少し拡げすぎてしまったか、楓の唇が切れてしまっていた。
『梨』を楓の口から抜いて、鳥籠から抱えて出してあげる。意識が朦朧としているようだ。目の焦点も合っていない。


「ぁ……」


『梨』で喉の奥を傷つけてしまったのだろう。楓は喋ることもままならなく、咳き込んでは真っ赤な血を口から流している。
楓はそれ以上喋ることは無く、いつものように優しく微笑む。まるで、俺を慰めるかのように。
そのまま楓は眠ってしまった。『梨』が口やらに入ったままでは、流石に眠れなかったのだろう。鳥籠に楓を閉じ込めてから丸一日と少しが経っていた。



――こういうことが始まったのはいつだったか。
楓は、俺が九歳の時にお兄ちゃんになって、俺は楓に恋をした。
俺に興味が無い父親と、俺を意のままに動かそうとする母親が嫌いで堪らなかった、そんな俺には、楓は初めて家族だと実感できた人でもあった。

成長するにつれ、楓に対する独占欲と欲情は加速していく。適当な女の子を引っ掛けて遊んだって、欲求が解消されることはなかった。
欲しい、欲しい、楓が欲しい。俺だけのものになってくれれば、俺の全てを楓にあげられるのに。

そうやって、日々叶わない想いだけを溜め込みながら過ごしていたある日のこと。
偶然、父親の部屋に入る楓を見掛けた。父親はとにかく冷たい人で、特に期待もされていない俺は年に何回も話さない程、関わりが薄い人だった。また、とても暴力的な人でもあった。
部屋の前を通ると、中から叫び声や何かがぶつかる音が聞こえる。
中でいったい何が行われているのかと、当時中学生であった俺は興味を押さえられる訳もなく。僅かに開けたドアの隙間から中の様子を伺う。



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