放課後。少しだけアゲハと話してから生徒会室へ。
今日は酷く寒い。特別教室棟へと続く渡り廊下が、まるで氷に閉ざされたように冷えきっている。きっと、夜は雪が降るだろう。

生徒会室の扉には鍵が掛かってなかった。今日は掃除当番じゃ無かったから、来たのは一番目だと思っていたのに。もしかしたら、茜あたりがサボっているのかもしれない。


「あら」

生徒会室の中にいたのは、楓だった。机に突っ伏して寝ている。
そういえば、こいつの姿を見るのも久しぶりな気もする。最近は仕事だなんだと学校に来ているかすらわからなかったのだから。

寝ている時の彼は、まるで死んでいるように静かだ。寝息も殆ど聞こえないし、表情も変わらない。
まあ元々感情を顔に出さない奴だ。寝ている時もその性情が出ているのだろうが、本当に面白みの足りない男だ。


「ん……ああ、先生。来ていましたか」
「ええ、おはよう楓」


起き上がった楓は、相変わらず生気の無い真っ青な顔をしながら目頭を押さえている。いつでも体調が悪そうな奴だが、今日はいつも以上に悪そうに見える。


「すみません、みっともない姿を」
「構わないわ。でも、体調不良は悪夢を呼ぶわよ。気を付けなさい」
「すみません、最近家に帰ってないもので」
「仕事? まったく、あいつらもいいご身分よね。魔女の弟子をいいように使い回しているのだから」
「進言しておきます」


椅子に座っていると、楓が何も言わずに紅茶を差し出す。微かにオレンジの香りがして、冷えた身体を温める。
楓は生徒会の書類を読んでいるようだが、うつらうつら船を漕いでいる。


「眠いなら寝なさいな」
「いえ、仕事が……」
「ああそうだわ、ほら」


椅子を何個か並べて、その端に座る。アゲハに教えて貰った『ひざまくら』というものだ。
詳しくはわからないが、安眠効果があるとかいうのでわざわざ私がしてやっているのだ。


「えっ、でも」
「いいから、ほら」
「……失礼します」


太ももに軽い重みを感じる。ぐだぐだ言っていた楓も、すぐに眠りについてしまった。
ただ、これはえらく暇な上に疲れる。ただ人の頭を太ももに乗せるだけだと思っていたのに。本でも持っておくべきだった。


そっと楓の瞼に手を乗せる。まるで陶器だ。人という温かみを感じない、きっとこいつは硝子で出来た人形なのだろう。今まで見てきたどんな人間とも違う、一番人間『らしさ』を感じない人間。
寝顔だけは、まるで子どもの様に繊細で無邪気なものだと思える。彼が、一番人間らしい時間なのだろう。

肩に感じる肌寒さ、足の温かさと重みと。そして言い様の無い、どこか愛しいような、欝陶しいような、今までに感じた事の無い気持ち。
この気持ちの正体を、私にもいつかわかる時がくるのだろうか。
妻になれば、母になれば、わかる日がくるのだろうか。



2012/0721
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -