「せんせ、」
「なぁに?」

跪いて彼女の爪先に口付けると、まるでマグマのように熱い彼女の体温が、唇から伝わってきた。
その体温に触れる度に、まるで棘で縛られているかのように、身体が痛む。


「愛してます、先生」
「そう」
「大好きです、先生」
「私もよ」
「だったら、俺と恋してください」


足の甲、ふくらはぎ、膝、太もも、ゆっくりと絹のように滑らかな肌に跡を付けて、彼女の身体を堪能する。
ああ、なんて罪深き。師と敬愛する偉大なる彼女を、欲と羨望で汚している。いっそこのまま押し倒して、汚い欲を彼女に全部ぶつけてしまおうか。
白雪を踏みしめるような、好奇心をくすぐり、罪悪感に苛まれる遊び。


「俺は、貴女を欲して止まないというのに、貴女はいつも俺からの想いを見ない」
「馬鹿ね。お前のそれは勘違いだと言っているでしょう」


彼女の太ももに手を置いて、身体を開かせるように彼女の足の間から顔の前へと、身を乗り出す。
まるで情事に及んでいるような、下品な姿だ。そんな姿を、彼女にさせているんだ。
ただ、彼女は眉一つ動かさずに、平然と俺の目を見ている。その炎のように赤い瞳に、今の俺はどう映っているのだろうか。


「俺を侮蔑しますか?」
「いいえ」
「貴女にこんな屈辱的な姿をさせた俺を許してくださいますか?」
「ええ。だって、私は全然気にしてないもの」
「先生」
「杜若。私の可愛い弟子。でも、それだけよ」


彼女の唇が、半月のように弧を描く。
昔見た絵画に似た、まるで女神のような微笑みだ。


「ああ、愚かしい弟子よ。お前は私を見ている訳ではない。お前は私の後ろにある大きな力を見ているだけ。焦がれと愛は違うというのに」


彼女の指が、俺の唇をなぞる。触れるか触れないかの微妙な力で、俺に触れる。気が狂いそう。
彼女は女神だ、そして魔女である。俺の師匠で、後輩。まるで母のようで、娘のようでもある。姉であり妹、恋人であり友人。彼女は、まさしく俺の全て。全てを備えた女性であった。
彼女を前にすると、俺はただの獣に成り下がってしまう。欲望に忠実に、彼女を求める。


「先生。では貴女に対するこの胸の痛みは、どうすれば良いのでしょうか」
「恋は罰よ。盲目に陥り、あるべき姿を見ない罪に対する、罰」
「恋は、罰」
「甘んじて受けなさい、愚かな弟子よ」


その直後、腹部に強い衝撃を受けた。きっと先生が蹴ったのだろう。
なのに、そんな行為でさえ、愛しく感じてしまう。きっと彼女に、彼女の魔力に呪われてしまったのだろう。ああいっそ、このまま殺してくれればいいものを。貴女の手で、永遠にしてくれればいいものを。


「一つ言っておくわ愚か者。私はね、何をされたって恋なんかしないわ。このままお前が私に無体を働いたところで、私の心は一ミリたりとも傷つかない。だってね、魔女は恋心を学ばないのだもの」


蹴り飛ばされて惨めに蹲る俺に対し、彼女は冷たい視線を向ける。
だけど俺は、先生の足元に縋り、みっともない姿を彼女の眼下に晒すのであった。


「それでも、先生。俺は貴女を恋い焦がれて止まない」


また、胸が痛む。罰を受ける。


2012/0114
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