適当に身体を拭いて、とりあえず俺のスウェットに着替えさせてから、十をベッドへと寝かせる。
相変わらず細くて貧相な身体だ。背中から二の腕に掛けて赤黒い刺青が入って、見ていて快いものではない。
荷物は……どうしようか。教科書なんかは拭いたってどうにもならないだろうし。
濡れた荷物を手にしたまま十の方に視線を向けるても、ベッドの上で苦しそうに呼吸を繰り返しているだけ。

どうしようかと物思いに耽っていたら、随分時間が経っていたらしい。携帯の画面を確認すると、十を部屋に運んでからもう一時間も経っていた。


「……ぁ」

十が目を覚ましたらしい。嫌味の一つでも言ってやろうかとベッドの方へと向かう。


「かん……ざ……き……?」
「おう」
「……ごめ……ん……今……かえ……る、から……」

薄く目を開け、息も切れ切れにそう呟いた。
十は起き上がろうとしたが、腕に力が入らないのかすぐにベッドに崩れてしまう。それでも起き上がろうとする身体をベッドへ押さえ付ける。


「一人で帰せるかよ」
「だい、じょう……ぶ」
「だいたい、家に帰りたくないっつったの誰だよ」
「……ご、めん」


焦点の合ってない目を閉じてやろうと瞼の上に手を乗せる。熱があるはずなのに、まるで陶器のように冷えきった感触が掌から伝わってきた。身体の芯から震えるような気味の悪い寒気を覚える。


「神崎、怒らない、の?」
「……そこまで餓鬼じゃねぇよ」
「ごめん……ね……」



――十の瞼に手を置いたまま俺も眠ってしまったのか。俺は夢を見た。

広い西洋風の屋敷。煌びやかで綺麗なその屋敷の影で、蹲っている一人の少年を見つけた。肩で息をしながら、身体を震わせている。外にいるのにはもう涼しすぎる季節だ。
少年に触れようと手を伸ばすが、俺の手は少年の身体をすり抜けてしまう。

少年の身体がゆっくりと芝の上に倒れる。顔が赤い。きっと熱があるのだろう。
周りを歩くメイドたちは、彼にまるで気付いていないように振る舞う。

誰かが言った。どうせ死なないのだからと。関われば不幸を招かれると。

少年は、悲嘆することも叫ぶことも、ましてや助けを求めることすら許されず、小さな身体をさらに小さく縮めて苦痛を凌いでいた。



そこで夢は終わり、現実に引き戻される。
ベッドの上は裳抜けの殻で、電気が付いていない部屋は酷く寒く感じられた。




2012/0721
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