「おい今日は?」
「あー…うん、行くよ。」


ん、とそれだけ返事をする爆豪くんの顔は無表情で。私にはもう用がないのだろう、自分の席に戻っていった。

授業の合間の短い休み時間に爆豪くんはいつも、今日は?と聞いてくる。それに私は行くか行かないか答えて、どちらを答えるにしても彼はふーんと興味ない顔をさせる。これがルーティーンとなっていて、唯一私たちが付き合っていると思わせるものだった。

21時共同スペースで、付き合い始めた頃から一方的に言われるその言葉。
今となっては来れるかどうか聞いてくれるようにはなったが、以前までは「今日もな。」と強制的な言葉に戸惑ったものだ。




まぁ会ったところで他のクラスメイトもいるし、二人で話すことなんて滅多にないんだけど。
それでも昨日の耳郎ちゃんと上鳴くんの言葉に影響されてか、今日は少し会いたくないかもしれない。会ったら聞いてしまいそう。この関係はなに?って。















「あれみんなは?」
「知らね。」
「そっか。」

21時ちょっと過ぎに共同スペースに向かうと、そこには携帯を片手に深くソファに腰掛けている爆豪くんの姿。周りには誰もいない。おかしいなぁ、この時間ならいつもみんないるのに。彼から見て斜め右のソファに座る。携帯から目を離さない爆豪くんをちらりと見ると、そのクリーム色の髪の毛から滴がポタポタと落ちていた。



「ちゃんと乾かさなきゃ風邪引くよ。」
「ぁあ?」
「髪の毛。」
「んなもん自然乾燥でいいわ。」
「まぁ爆豪くんは風邪引かなさそうだもんね。」



ははと笑うとそのルビーがギロリとこちらに向けられる。あ、やべ。これじゃあ馬鹿って言ってるも同然じゃん。と失言を気にするも、彼は何も言わずにまた手に持つ電子端末に視線を戻した。
シーンと静まるその空間はいつもいる共同スペースと一緒だとは考えられない。その静けさが妙に心地悪くてそわそわしてしまう。




「……あーー、みんな来ないのって珍しいね。」
「そういう日もあんだろ。」
「なんか、静かすぎて変な感じ。」
「いつもがうるさすぎんだよ。」
「確かに。」



久しぶりかもしれない。
こんなに二人で会話するのは。
まだ付き合う前、私が前で爆豪くんが後ろの席だったときはこんな風に毎日話してたなぁ。って言ってもさほど遠くない日のことなのに、なぜか凄く懐かしい。
だって彼の顔をこんなに見たのだって久しぶりだし。彼はこっちを見てくれないけど。
なんて思っていると急に顔を上げた爆豪くんの視線が私を射抜く。わ、といきなり突然交わる目に一瞬たじろぐ。



「なぁ。」
「ん?」
「こっち、来ねぇの?」



こっち、ていうのはその少し空けられた爆豪くんの隣に座らないのかということだろうか。
いや来たときに座ろうかと思ったけど、あまりにもドンと真ん中に座っているから今こっちにいるんだけど。



「………私のおしり大きいからそんな狭いとこ座れないよ。」
「あー…、」
「ねぇそこ納得するところじゃないんだけど。」




立ち上がって言われた通りにその狭い空間にストンと座る、がやっぱり入らなくて爆豪くんの太腿に少し体重を預ける形になった。
ほらね座れないじゃん、と彼に顔を向けると先程までとは比べ物にならないくらいの距離の近さに驚く。だってすぐそこに顔があるんだから。
思わず固まってしまう私に対して、相変わらずの無表情の爆豪くん。でもその瞳の奥のルビーが少し揺れた気がした。




「…………おめぇよ。」
「……いや爆豪くんがずれてくれないと。」




すると大人しく横にずれてくれた爆豪くん。最初からそうしてくれたらよかったのに、と思いながら座り直すと、そこには人ひとり分くらいの距離。
いつもより近いはずなのに、さっきよりは遠い距離。
どうしよう今さらどきどきしてきた。なんか付き合ってるぽくないか、この感じ。





「あ、あーーあれだね。なんか二人きりで話すの久しぶりだよね。」
「……だから顔あけーの?」
「え、本当?」
「ここらへん真っ赤。」


ふと自然に頬に触れた爆豪くんの指先。
あ、やばい。すごい顔が熱い。どうしよう。
これじゃあ私彼女みたいじゃん。爆豪くんが彼氏みたいじゃん。付き合ってるみたいじゃん。
いや付き合ってるんだけど。だけどだけど、なんて気恥ずかしいんだ。


思わず彼から離れるようにしてのけ反る。顔に触れると自分のものとは思えないほど熱を持っていた。



「……まってこのままじゃ茹でられてしまう。」
「てめぇはタコか。」
「タコでもなんでもいいからちょっと待って。あー、あつー…。」


暫くはこれずっと熱いままかもしれない。
自分がこんなに顔に出るなんて知らなかった。赤面症かなにかかもしれない。いやでも以前付き合っていた人の前ではこんな風にならなかったのに。どうしてこんなに。



「今日はもう寝るか。」
「うんもう寝たい。」



早く部屋に戻ってベッドにダイブして、そしてもう今日はなにも考えずにこのまま眠りにつきたい。
なんでだとかどうしてだとか今日はやめよう。
それこそ頭が沸騰してしまう。

私が立ち上がると爆豪くんもそれに続くように立ち上がり、部屋へと足を進めた。
いつも言わないくせにふたりしておやすみを交わす。部屋に戻ってベッドに入って、もう寝る準備は万全だというのに、この日は胸が騒ついて眠れなかった。











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