今でも不思議に思う。
私はなぜ彼と付き合っているのだろうかと。



「もう寝るわ。」
「あ、うん。おやすみ。」



というかそもそも付き合っていると言えるのだろうか、この関係は。この距離感は。このよそよそしさは。

彼の赤い眼差しは私をちらりと流すように捕らえたかと思えば、そのまま正面を向いてこの場を離れる。そういえば今日初めて目があったかもな、なんて思いながら遠のく背中をぼんやりと見つめた。


「…ねぇほんとアンタたちって付き合ってるの?」
「…耳郎ちゃん、私も今疑問に思ってたところ。」
「え?まだ続いてんの?」


上鳴くんが言うには私と彼はもう別れたことになっていたらしい、自然消滅的な形で。まぁそう思われても仕方ないことなんだけど。ていうかそういう私も今付き合っているか疑問なんだけどさ。




「別れては、ないと思うよ…?」
「なんで苗字が疑問形なんだよ。」
「だってどこにも出かけたことない手すら繋いだことない、唯一会うとしたらここだけだし。」


それ付き合ってるって言わないと思うけど。と口を揃えて言う耳郎ちゃんと上鳴くんの言葉に、私はうーんと首を傾げざるを得ない。とりあえず笑っておいたけど怪訝な顔は解けなかった。


まぁ確かにそうか。
仮にも恋人同士の私達がこの共同スペースでしか会ってないというのはおかしいか。しかも漏れなく毎回クラスメイト付きで。
今日も私と彼と耳郎ちゃんと上鳴くんの四人、それに言葉を発したのは彼を除いた私を含め三人だけだったような気がする。いや絶対そう。



「一回聞いてみたら?付き合ってるんだよね?って。」
「えーーーーー耳郎ちゃんも一緒に聞いてくれるならいいけど…。」
「ぜっっったいに嫌だ。只でさえ名前がアイツと付き合ってること自体考えられないのに。」
「でもそう言われたら苗字しかいねぇかもな。爆豪と付き合えるの。」





上鳴くんは至極真っ当な顔で私をまじまじと見つめながら言うが、その言葉はどこか釈然としない。私と彼、もとい私と爆豪くんとの間にそんな風に他人を思わせるなにかが今まで少しでもあっただろうか。付き合い出して約3ヶ月くらい経ったけどそこには時間だけがあって中身はなにも伴ってないのに。



「……それどういうこと?」
「まぁとりあえず一回はっきりさせようぜ、ってことで明日聞いとけよ。」
「やだよ。聞かないよ。」
「苗字もここらですっきりしてーだろ?」
「…だけどなーーー、」
「付き合ってんだろ?じゃあいいじゃん。」
「付き合ってたらそんなこと聞きません。」
「もう決まったことだから、じゃ明日ちゃんと報告しろよ。」


そう言って立ち上がった上鳴くんは私の反論は他所に、おやすみーと言いながらさっさと自分の部屋へと戻っていった。なんだあいつは。
ウチ等ももう寝ようか、という耳郎ちゃんの言葉に頷き、二人で腰を上げた。





「上鳴に同意するわけじゃないけど、名前がもし悩んでるならウチもはっきりさせたほうがいいと思うよ。」
「…考えとく。ありがと耳郎ちゃん。」




耳郎ちゃんと別れ自分の部屋に戻ると、静かすぎるその空間が妙に思考を巡らせた。ベッドに飛び込むかのように倒れる。気持ちいい。






別に悩んでるわけでももやもやしているわけでもない。
ただ、なんでだろうと不思議に思うってだけ。

私たちはなんで付き合っているんだろうって。
爆豪くんはなんで私に付き合っているんだろうって。
付き合うってなんなんだろうって。

それだけ。













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