最終選別から数日後、わたしの元へ日輪刀が届けられた。
日輪刀、
ずっと憧れていた。日輪刀にというか、実弥さんの腰に下がっている刀の存在感 、時々手入れをしているのか眺めるように鞘から出した刀を持つ姿が、実弥さんの持つ刀が角度によって深碧から花萌葱に色が変わる姿がとても綺麗で、






「すすすすすす、凄い緊張する。」











ただいま自室にて日輪刀様と対面中です。

この日輪刀は持ち主によって色が変わる、別名色変わりの刀。
未だに鞘に閉じ込められた刀が何色になるのか、実弥さんのような綺麗な色になるだろうか、風柱の継子に相応しいような色になるだろうか、様々な思いを巡らせているうちに抜くに抜けなくなっていた。
彼此、柄に手をかけたままかなり10分は経っていたと思う。






「…これ以上悩んでも結果は変わらない。抜くんだ、そうもう抜きます、いきます、いやでも、」





「なあにやってんだぁ。」



「うわぁっ、って、宇髄さん!」






突然の背後からの声にわたしの肩は大きく跳ねた。

いる気配すらも感じなかったのはきっとわたしが余程考え事をしていたのか、それとも声の主が元忍の音柱である彼だから気配を殺していたのか。

首が痛くなるほど勢いよく振り向けば、いつものように派手な額当てを身につけ、纏めている髪で彼の端正な顔立ちがはっきりと見えた。
わたしは手に持っていた刀を一度置き、宇髄さんの近くまで駆け寄ると大きな身体がより一層大きく見えた。






「お久しぶりです!今日は何用で?」

「不死川にちょっとな。あとちびっ子が最終選別から戻ったって聞いて褒めてやろうと思ってな。」





と言うと宇髄さんはその体格に似合う大きな手でわたしの頭をくしゃと撫でた。とても心地よい暖かさとわたしのような弱小隊員にもこうやって目に掛けてくれる優しさが彼の手から伝わってきて、さすが嫁が3人いるだけの人ではあるなぁと。






いきなりの訪問で自室は汚いことに気づき、こりゃあなんでも柱の方を通すわけにはいかない。自室の戸を閉め縁側に二人並んで腰掛けた。

宇髄さんとはよく話をする仲で、それはもう妹のように可愛がってくれている。
時々からかわれているのか、徐ろに肩車されたり両脇を抱えられグルグルと振り回されたりもするけど。あれわたしガキすぎやしないか。





最終選別のことや実弥さんとのことから最近の天気までまるで世間話をするかのように二人で話した。と言ってもわたしが一方的に話して、その間宇髄さんはわたしの頭を撫でたり髪をくしゃくしゃにしたりしていて。まるでわたしが話を聞いてほしい子供のよう。だって宇髄さん聞き上手っていうか、楽しそうに頷いてくれるんだ。どっかの誰かさんと違って。






「っていうか宇髄さんは子供扱いしすぎです、わたしだって立派な隊員ですよ。」








「刀すら鞘から抜けねぇのになぁ?」

「み、見てたんですね。」







やはり最初部屋に入った時に見られていたのか。

全く触れられなかったのでてっきり刀がわたしの影になり見えていなかったのかと踏んでいたが、ばっちりと見られていたらしい。
立派な隊員です、と大口を叩きながら刀も抜けないことを悟られていたのか。矛盾したことを発しているわたしの幼稚で未熟な言動が恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じた。









「なにがそんなに怖いんだ?」








わたしをまっすぐと見る目は全てを見透かされてそうで。でも不思議と嫌じゃなくて、寧ろ気づいてくれたことが有り難くて。




そうかわたしは怖かったんだ。
今まで実弥さんの期待に今まで添えてこられたかも分からないのに、わたしが彼の継子なのもたまたま彼に拾われたからで、あの日あの時わたしを見つけてくれなくちゃわたしなんてなんの価値も生まない傀儡なのに、




「…実弥さんは、きっとわたしの刀の色とかどうでもいいと思うんです。ていうか絶対興味ないけど。だけどわたしはやっぱり拾われた身だから、少しでも、喜んでほしくて」


「逆に不死川が刀の色くらいで喜ばねぇと思うけどなぁ。」




でも、と言葉を繋げようがそれは叶うことなく、両頬を大きな両手でぎゅうとつままれた。じ、地味に痛い。でもその痛みで気づかないふりをしていた目頭の熱さが引いていくのを感じた。










「ごたごた考えんな。派手に抜け、それがお前の色だ。」



「わたしの、色ですか、」






ストン。
聞いた言葉が胸の中に収まるような、悩んでいたことの解決策が見つかったような、そんな気分になるような言葉だった。
そうか、わたしはわたしで、実弥さんは実弥さんで、そんな簡単なことだったのか。








「…やっぱりおじさんの言葉は身に染みますね。」

「誰がおじさんだ。ちびっ子はもっと大人になれよ。」





なんなら俺が一緒に刀抜いてやるよ、派手な色になるぜ。と笑ってる宇髄さんが凄い大人に見えて。
やっぱりわたしはまだまだ子供だなあ、と。
まだまだそちら側には遠いなあ、と。
思わざるを得なかった。















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「実弥さん実弥さん。」
「あぁ?」
「わたしの刀、真っ黒だったんです。大人っぽくないですか?」
「…。」







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