名前が仁王の事を好きじゃない事ぐらいわかっていた。それと同時に無理をして仁王を好きになろうとしている事も、全部わかっていたのだ。あいつはどうしようもない阿呆だから応援してくれている俺の為にと仁王を好きになろうとしているのだろう。

俺は高崎さんが好きで、名前は仁王が好き。俺と名前は幼馴染みのまま。この関係図が俺の理想だった。幼馴染みとしてやってきた仲だ。恋人なんかよりも名前は俺の事をずっとわかっているし何よりも近い存在だと思ってる。それなのに、あのバカがあんな顔をするから俺は高崎さんの告白に頷く事が出来なくなってしまったのだ。俺の初恋と名前の存在、どちらが重いかなんて天秤にかけなくたってわかる。

俺が高崎さんの話をする時、名前があまりいい顔をしない事を俺は知っている。高崎さんの事が好きだと打ち明けた時、何度も練習したであろう精一杯の笑顔を作っていた事だって知っている。付き合って名前が寂しがるくらいなら、初恋だって棒に振ってやる。

それが名前の想いに答えてやれない俺のできる精一杯の事だった。

もし名前が仁王の事を好きになれていたなら――。俺は名前の気持ちが俺に向いていると思うのが怖かったのだ。名前と、この一番近い存在である幼馴染みという関係を壊すのが。

だから卒業式のあの日、俺は名前の背中を押した。ただ何か言葉を掛けようとしていただけの名前に「頑張って」と言ったのだ。一瞬だけ泣き出しそうな顔をした名前はすぐにいつもの笑顔に戻って、「当たって砕けてくる」と俺に言い残してから仁王に連絡先を聞いて、告白していた。

名前は俺や仁王から逃げるようにして東京の大学に行った。それきり名前とは会っていなかったのであれから仁王とどうなったのかは知らない。名前が今何をしてどう生きているのかさえも、知らない。一番近い存在である幼馴染みという関係に拘った俺は、名前を一番遠い存在にしてしまったようだ。
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