「同じクラスになったと思ったら今度は隣の席になるとはのう……」

念願の席替えの為にせっせと机を運ぶ作業に没頭していると、頭上から仁王くんの声が降ってきた。あの雪の日から三ヶ月が経ち、私達は高校二年生になっていた。残念ながら幸村くんとは同じクラスになれなかったがその代わりと言っては何だが、今度は仁王くんが同じクラスになれた。しかも今回仁王くんとは隣の席になるらしく、今も机をくっつけて並べている状況だ。

仁王くんと特別何かあったという訳でもないが、あれから挨拶くらいはするようになった。髪の色やサボり癖から仁王くんには不良というイメージを持っていたのだがどうやら彼は面倒臭がりな変わり者なだけだったようだ。

聞けばあの奇抜な髪色は個性を出す為らしい。ちょろっとだけある長い襟足を結っているのも個性の為だそうだ。確かにあの色濃い面子のテニス部レギュラーの中で個性は大事なのかもしれないが――銀髪って、真田くんに怒られそうだよなあ。

「そういえば仁王くんレギュラー入りしたんだって?おめでとう」
「ありがとさん。幸村情報か?」

他愛もない話をしながら休み時間の訪れを待つ。漸く昼休みになったので今日は弁当を持って中庭に行く事にした。

中庭に行くと、幸村くんが花に水をやっているところに出会す。声を掛けようかとも思ったがその隣に高崎さんがいたので敢えなく断念した。――今日は中庭で食べようと思ったけど邪魔しちゃ悪いし教室に戻ろう。そう決意してくるりと方向転換した瞬間、幸村くんの優しいテノールの声が私の名前を呼んだ。

「名前!」
「もう、幸村くんのばか。せっかく彼女さんとの楽しい一時を邪魔しないように立ち去ろうとしたのに」
「バカはお前だろ。それに高崎さんとは付き合ってないよ、残念だけど」
「うそ!なんで!」
「そうそう。だって精市くんはテニスが恋人だもんねー?」

高崎さんの事好きな癖に、付き合ってなかったんだ。しかも名前呼びまでされてるのに。付き合ってくれでもしたら幸村くんへの気持ちを何処かに仕舞い込む事もできるのに、そういうのずるい。もしかしたら幸村くんは私の気持ちに気付いてるんじゃないかと錯覚した。そんな筈は、ないのに。

「新しいクラスには慣れた?」
「中学の時からの友達もいるし一応は慣れたかなあ……」
「ふふ、仁王もいるしよかったね」
「え?」
「最近仲良いだろ?お前俺以外の男とあまり話さないから心配してたけどよかったよ。好きなんだろ、仁王の事」

ゆきむらくん、ゆきむらくん。そんな優しい笑顔で私の心にナイフを突き刺すのはもうやめてよ。

私は逃げ出したくなる衝動を抑えてただ曖昧に笑う事しかできなかった。


2005-May
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