季節が巡るのは早いものでもう夏だ。少しだけ、幸村くんと高崎さんが一緒にいるところを見るのにも慣れてきた頃だった。幸村くんだって年頃の男の子なんだから好きな人ぐらいいて当然だ。逆に今まで好きな人がいなかった事の方がおかしいくらいなのに、突然すぎた幸村くんのその恋は私の胸にずっしりとした重みを残した。

「名前、今日うちの親出張でいないからお前の家行くけどいい?」
「うん、後で母さんに言っておくね。今日も部活終わるの遅いの?」
「多分9時ぐらいになるかな」

ふと、私の隣で先程まで話をしていた小雪ちゃんが笑い始めた。そんな小雪ちゃんの行為に首を傾げる私達を見て、小雪ちゃんはまたしてもあははと笑い声を上げる。

「ごめんごめん、何か夫婦みたいに見えちゃって。こんなに仲が良いのに付き合ってないなんて信じられない」
「俺達はただの幼馴染みだよ」
「そうそう。幸村くん最近好きな子できたから私よりそっち優先だしね」

私は今、いつも通りの笑顔でちゃんと笑えている筈だ。何度も笑顔の練習をしてきたから。確かに私は幸村くんを好きだけど困らせたい訳じゃない。恋の邪魔をしたい訳でもない。

――寧ろ、私以外の誰でもいいから幸せになって貰いたいと思っている。高崎さんでも何でもいいから、普通に恋をして付き合って結婚して子供を産んで幸せになって欲しい。その子供に私の遺伝子が組み込まれている必要なんて何処にもないのだ。

最近の幸村くんはよく笑うようになった。多分、高崎さんのお陰だろう。だからさっさと付き合ってしまえばいい。そうなれば諦めだってつくかもしれないのに、私の思うようには動いてくれないのが幸村くんなのだが――。

「別に優先とかはしてないけど……何?もしかして寂しかった?」
「まあ、名前もそろそろ幸村離れしないといけないんじゃない?」
「そうだね、私も好きな人作ろう」

幸村くんがいない世界なんて考えた事もなかったけど、いずれ大人になって親元を離れたら会う機会だってなくなるし幸村くんがいない生活に慣れておく必要があるのかもしれない。

今までずっと一緒にいた私達でもこれから先もずっと一緒に可能性なんてほとんどゼロに等しいのだという事に漸く気付いた瞬間だった。幸村くんがいなかったら私、どうなっちゃうんだろう。案外平気でやっていけそうな気もするけれど――。

ちらりと覗いた幸村くんの横顔は何処か寂しそうで、このまま離れる事なくずっと一緒にいられる世界を夢見てしまう自分を心の奥底に仕舞い込んだ。


2004-June
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