ステンドグラス越しに入ってくる薄い月明かりに照らされながら色とりどりの花達が咲き誇っている神秘的とも言える教会。此処は初めてエアリスと出会った場所だった。この教会の屋根と花がクッションになって俺は助かったんだっけか――。

彼女、エアリスとの出会いからさほど時間は経っていない筈なのにそれが何年も前の事のように思えるのは、ここ最近衝撃的な出来事が沢山あったからかもしれない。今までにあった事を思い返しながら花に手を伸ばし、花の表面に指先が触れた瞬間、教会のドアがギィィ――とその重たさを象徴するかのような軋んだ音を立てながら開いた。

 重たい扉を開けた犯人の正体はまだ十六、七に見えるくらいの少女だった。その少女は先客がいた事に多少の驚きを見せたようだったが、先客の存在等気にする程のものではないと判断したのかふわふわとした栗色の髪を揺らしながら花の手前――クラウドの下まで歩いてきて、飄々とした感じでクラウドの隣へと腰を降ろす。少女の手から下げられていた如雨露を見てクラウドは少女が何をしに此処へやって来たのかをすぐさま理解した。

クラウドの隣に腰を落ち着かせた少女の横顔をちらりと盗み見る。暫し花を見つめていた少女はクラウドの視線に気が付いたのか、目線を斜め上にやってクラウドの蒼い瞳を捉えた。視線がかち合った所為か一瞬だけ目を見開いたクラウドは、先程少女がそうしていたように花へと視線を移して安堵したように小さく息を漏らす。その様子を不思議に思ったらしい少女が、此処にきて初めて口を開いた。

「どなた?」

少女の澄んだ声で問い掛けられた為、もう一度そちらへと目をやったクラウドだったが今度は少女が顔ごと此方を向いていた為に目を反らしたくなる衝動に駆られた。人見知りという訳でもなければ女が苦手という訳でもないが、何もかもが不安定な今の自分にとって真っ直ぐで純粋なその瞳は毒だ。とりあえず何か答えなければ、と薄い唇を開く。漸く出た声は少し掠れたみっともない声だったが、それでも少女は目を反らす事などしない。

「俺は……クラウド」
「クラウドかぁ。私の名前は名前!最近よく此処のお花達に水をやってるの。前まではお姉――違う人が世話をしてたんだけどね、最近はめっきり姿を見せなくなったから……」

少女が言う違う人が誰かはすぐにわかった。きっとエアリスの事だろう。少女がエアリスの事をお姉ちゃんと言いかけたのは少し気になるが、此処の花を大切にしていた人物なんてエアリスの他にいないだろう。

「――エアリスは、」
「えっ?あなたエアリスお姉ちゃんの事知ってるの?」

少女がきょとんとした顔で訊ねてくる。その表情にはどこか嬉しさも混じっているように見えて、クラウドは到頭目を反らした。きっと彼女はエアリスが死んだ事を知らない。もう二度と此処の花に水をやる事が出来ないという事実を知らないのだ。

 エアリスの身に何が起こったのかをこの少女に教えるべきなのだろうか。知らない方がいいのかもしれないが、そうすればこの少女はザックスの帰りを心待ちにしていたエアリスのようにずっと此処でエアリスの事を待ち続ける事になるだろう。だが、クラウドは事実を打ち明けるのが恐かった。自分の目の前で儚く散ってしまったエアリスをどうして助けてくれなかったのだと少女に咎められる事が恐いのだ。

「質問を質問で返すようで悪いが……あんたはエアリスの何だ?」
「私?私は――うーん、そうだなぁ。ただの知り合いって言うのが一番しっくりくるかも。」
「妹、の筈ないよな……」
「お姉ちゃんみたいな人だったからそう呼んでるだけ。綺麗で優しくて、私の憧れの人だよ。たまにお姉ちゃんを通り越してお母さんみたいだった時もあったけどね」

少女の笑顔を目にしたクラウドは、心臓が抉られたかのような痛みを感じて顔を歪めた。エアリスを助けられなかったという自負の念が非情にもクラウドを包み込んでしまうのだ。逃れたくとも逃れられない過去は、此処でもクラウドを暗闇へと追いやっていた。

「エアリスは、もうこの世にはいない……。俺の目の前で死んでしまった。目の前にいながら、助けられなかった」

振り絞って出た声は悲愴に満ちた、自分を責めるかのような声だった。唇を噛み締めながら、クラウドは少女の反応を待つ。

 エアリスを失った悲しみに泣き喚くか、それとも助けられなかった俺に罵声を浴びせるか――。どちらでもいい。好きなだけ俺を責めてくれれば逆に良かったのに。何を思ったのかその少女は「ありがとう」という言葉を口にしたのだ。意味がわからなくなった俺は視線を少女の方へと向けて表情を伺った。

「聞こえなかったのか?俺はエアリスを――あんたが慕っていた優しい姉さんを助けられなかったんだぞ!!なのにどうして……ありがとうなんて言えるんだ……」
「クラウドさんが優しい人だから、かなぁ?こんなにエアリスお姉ちゃんのことを思ってくれてる人にありがとう以外の言葉を言うなんておかしいじゃない」

 泣くでもなく、怒る訳でもなく、少女はクラウドに笑顔を向けていた。クラウドだって、あの時にセフィロスの存在に逸早く気付いて庇う事ができていたなら、と何度も思ったのだ。それすらも見透かされていたのだろうか。その笑顔は哀愁に満ちていて、その大きな目には涙だって浮かんでいるのに、彼女は決して泣かなかった。

「悲しくない訳ないよ。でもクラウドさんを恨むような事はしない。――お姉ちゃんの事を想ってくれて、ありがとう」

 この言葉にどれだけ救われた事だろう。自分が本当に自分なのかもわからない今の状況で、女一人守れなかった俺がしてやれる事はエアリスを心の中で生かしてやる事だけなのだ。悔やんでも悔やみきれない過去から逃げずに、それを受け止めてやらなきゃいけないのだとその時初めて、気が付いた。

――花に水をやりながら鼻を啜り肩を震わせている少女に向かって、届かないくらい小さな声で言葉をかける。彼女は最後まで俺に涙を見せる事はしなかった。

「ありがとう」

その言葉を残して教会を立ち去る。全てが終わってまた彼女に会う事があったら、エアリスが眠るあの地に彼女を連れて行こう。そう心に決めて重たいドアを開けると、幼馴染みが笑顔で俺を出迎えてくれた。



――――――――
シリアスな話書くの苦手です。
時間軸はクラウドとティファが抜けた辺りの設定だけどそこまでゲーム進めてないからわからないというかまずまだエアリス死んでない!矛盾とかいっぱいあると思うけど一応wikiを参照にして書いてみた。

1月16日追記
無理がありすぎるwwwミディールから動けない上に喋っても「ぐげ……」とかしか言えないのにスラムの教会で女の子と喋るとかwwwwwそれにこの時のクラウドは宝条に「ナンバーくれ」とか言っちゃうような奴だしなぁ まあパラレルワールドって事でここはひとつ……

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