俺がジョウト地方を旅していた時の話だ。本当に強いポケモンというのを初めて目にした。よく育てられているというのも当然の事なのだが、根っこから強い――言うならばエーフィという種族の中でも飛び抜けて強いエーフィを俺は見たのだ。

残念ながらそのエーフィは人のポケモンだったのでゲットするという訳にはいかなかったが、強いポケモンを追い求めていた俺から見てもそのエーフィは完璧だった。よく考えられた技構成、エーフィの高い特殊攻撃力と素早さをいかした育て方、そしてエーフィが元々持っている素質、全て含めてパーフェクトだ。

「……強いな、そのエーフィ」

気付けば俺はそのトレーナーに話しかけていた。先程までバトルをしていたトレーナーはくるりと此方を振り返って、強い事がさも当然だとでも言うようにこくりと頷く。

「育て方や技構成でどうとでもなるって言う人もいるようだけど、同じ技構成や育て方をしている同種族のポケモン同士が戦ったらそのポケモンが元々持っている素質で勝敗が決まるわ。だから私はいつだって強いポケモンを追い求めてる」

――誰にも負けたくないもの。
そう言い放った彼女からの視線を受けて、金縛りにあったかのように俺の身体は動かなくなった。冷めているのにその奥に勝ちたいという意志が燃えたぎっているのが見て取れる、そんな瞳だ。

俺は彼女に勝負を挑んだ。6対6のフルバトルだったのだが、彼女の繰り出したベルガーに手も足も出ない状態で終わってしまった。攻撃技を繰り出せばふいうちでやられ、それならば状態異常にしてやろうと命令すれば挑発を受けて無意味に終わる。そんな一方的な試合だったのにも関わらず、俺は不思議と悔しいとは思わなかった。

差が歴然としていたからこそ悔しいと思えなかったのかもしれない。

「素質はある。ポケモン自体も決して弱い訳じゃない」

こいつ等も所詮は使えない弱いポケモンだったのか。そう思った俺の耳を掠めたのは意外な言葉だった。目を回して倒れている俺のニューラを抱き上げて、彼女はニューラの傷口に傷薬を塗っている。

「お前のポケモンに比べたら――」
「そうね。でも私と比べる事自体がおかしいの、間違っているわ。あなたは強い、でも私の方が強かった。それだけの事でしょう」

ニューラの手当てを終えたらしい彼女は、抱っこしていたニューラを俺の腕に抱かせた。申し訳なさそうに目を伏せているニューラに叱咤激励を浴びせる程、俺も鬼ではない。これほどまでに強いトレーナーから素質があると言われたポケモン達だ。これからの育て方次第できっと、強くなる。

「色々勉強になった」
「私を負かすくらい強くなったらまたここにいらっしゃい。私この街の外れにある一軒家に住んでるから」

それじゃあ。ひらひらと手を振って去っていく背を見つめながら、腕に収まっていたニューラをボールに戻す。兄貴よりも強いトレーナーと初めて会った気がする。名前も経歴も知らない女だが、彼女は強く、そして美しかった。

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