ツー、ツー。久しぶりに名前から連絡がきたと思えば、「家に来い」と本当に用件だけ言われてその電話はすぐに切れてしまった。怒っている風だったが俺には何故名前が怒っているのかわからなかったので首を傾げる事しかできない。 通話時間5秒、とディスプレイに表示されたポケギアを数秒間見つめてから、慌てて名前の家に向かった。 「デンジさん!?ちょっ…どこ行くんですかー!」 「用事が出来たんだ!悪いが見送る事はできない」 突然走り出した俺の背に投げ掛けられたマリアの声に一度振り返って手を振る。彼女は今日ホウエンに帰るらしいのでそれまで一緒に、と思っていたのだが名前が怒って連絡してきたのだからそちらに行くしかない。それが、彼氏としての役目なんだと思う。俺にはよくわからないが少なくとも世間一般的にはそうだ。 名前の家に着いた俺は、一瞬ドアをノックする事を躊躇った。何を言われるのかわからない為少しだけ、怖いのだ。躊躇って俯いている間に突然ドアが開く。それに反応する暇すら与えて貰えなかった為、俺は勢いよくドアに頭をぶつけた。 「あらデンジ、いたの?」 「……ッお前が呼んだ、だろ」 正直言って、めちゃくちゃ痛い。そんな俺に構う事なく早く上がってと言ってみせた名前はやはり怒っているようにも見える。というか、確実に怒っているだろう。 「座って」 言われるがままに床に座る。いつものように胡座をかいて座った俺だったが、誰が胡座でいいなんて言ったの?という名前の地から這い出たようなドスの効いた声によって、俺は渋々正座をする事になった。 「あの女とはどういう関係なの」 「マリアの事か?あいつはただのチャレンジャーだよ」 「なら何で海でデートしてたの。今日だって一緒だったんでしょ?オーバから聞いたよ」 「ちょうどお前が帰ってきた日にジムに挑戦しにきて、レントラーの話で少し盛り上がったから話してただけだ。因みに今日はホウエンに帰るって言うから見送りに、」 「ふーん私が旅に出た時は見送りになんて来なかった癖にあの人の見送りには行くんだへぇー。幼馴染みと恋人の違いってやつ?」 「……恋人?」 「あの人の前で私の事幼馴染みって紹介したじゃない。付き合ってるんでしょあの人と!!」 ――あぁもう、女ってやつは本当に面倒な生き物だな。涙やら鼻水やらを垂らしながら自棄になって叫んだ名前に呆れて笑みさえ漏れた。 「バカらしい。というか、お前がバカなだけだな」 「どれだけあたしが悩んだかわかりもしない癖にバカとか言うな!」 泣きながらぽかすかと俺を殴ってくる名前の手を掴んで、名前の顔を見る。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔を見てまたしても笑いそうになったが、きっと笑ったらまた怒られるので何とか堪えた。 「元はと言えばお前が悪い」 「はぁっ?……何よそれ」 「俺を置いて旅に出たお前が悪い。それに連絡の一つも寄越さなかったのはお前の方だろ」 「寂しかったって言えよバカ」 「言わせるなバカ」 まるで威嚇しているボーマンダのように凶暴なこいつを、そっと抱き締めてやる。今まで、俺達の付き合いは長いから何も言わなくてもわかってくれているのだろうと思って行動や言動に現さなかったこの気持ち。言うなら今しかないと思った。 「言わないでもわかってくれてると思ってたから今まで一度も言わなかったが今日みたいに、お前が不安になる事があったらいつだって言ってやる。……好きだ」 抱き締めている状態なので名前の表情は伺えないが、先程まで暴れまわっていた名前もこの時ばかりはぴたりと動かなくなったので、効果はあったようだ。そうして少し経ってから、胸をグイグイと押されたので渋々名前から離れて顔を覗き込むと、またしても泣きそうになりながら俺を見上げている名前がいた。 「ほ、ほんとに私の事好きなの?」 「ああ、好きだよ。そうじゃなかったら付き合ってないだろ……」 何だか凄く理不尽に怒られていたような気もするが、結局のところお互い愛情表現が下手だからこういう事になってしまったんだと理解した。とにかく、名前が笑っているんだからそれでいいや。 こんな面倒な喧嘩はできれば一生したくないけど、たまにはこういう刺激もあっていいんじゃないかとも思う。つまるところそういう事だ。 |