名前が何も言わないのであれば、この俺が言ってきてやろうじゃないか。そう考えついたのは名前が俺のところに来てから一週間が経った頃だった。本当は俺が聞く事ではないので出来ればこうしたくはなかったのだが、このままだといつまで経っても奴等の夫婦喧嘩は終わらない。

そして俺に火種が降りかかる。そんなのは御免被るので故郷であるナギサシティへと海を越えてやってきた訳だが、白い砂浜で見慣れた金髪の男と知らない女が一緒にいるのを見て俺は目を見開いた。名前の言葉を疑っていた訳ではないが――確かにあれは恋人同士に見えてもおかしくない風景だ。

「ようデンジ!と、そちらの姉ちゃんもこんにちわ」
「ああ、お前か……。相変わらず暇そうだな。何しに来たんだ?」
「お前に話があって。お話し中だったところ悪いけどちょっとこいつ借りてくぜー」
「え?あ、はい」

女が二つ返事で頷いたのを確認してから、デンジの腕を掴んで砂浜を駆け抜ける。デンジはというと突然の事で焦っているのか離せだの暑苦しいだのと悪態をついているが、生憎腕を離すつもりはない。ナギサジムの前まで来てようやく手を離した俺を、デンジがものっそい目付きで睨みつけていた。

「……おい、何のつもりだ?」
「まぁまぁそう怒るなって。率直に言わせてもらうと――そうだな、お前名前放っておいてあの姉ちゃんと何してんだ?」
「さぁな。お前には関係ないだろ」
「関係あるんだなーこれが。名前が泣きながら俺んとこ来たんだよ」
「あいつが?」
「そうそう。んであいつもお前等の邪魔しちゃ悪いからデンジとはもう会わないとか言い出すわなんだで、そんなお前等を見かねた俺がお前のとこに来たってわけよ」
「ふーん。でもな、一つだけ言わせてもらうぞ。最初に俺を放ってどっか行ったのは名前の方だ」
「まぁそうかもしんないけど……お前等付き合ってんだろ?」
「名前が付き合ってるって思ってるなら付き合ってるし、そう思ってないなら付き合ってない。……用はそれだけか?なら俺はもう行くぞ」

言うだけ言ってまた海辺の方へと歩き出して行ったデンジを追いかける事はできなかった。あいつにも思うところがあるのだろう。ここに来た目的であったあの女との関係は、結局はぐらかされて聞き出せなかったが――デンジも寂しかったんだという事はわかった。これは名前に報告してもいいだろう。

というか、結局俺が仲介役なんだな……。まぁいいけど。



続いて名前の家に向かった俺は、げんなりとした様子でドアから顔を覗かせた名前を見て短い悲鳴を上げた。恐い。ホラー映画とタメ線張れるくらい、恐い。そんな表情のままで上がってくれと言うものだから、脅された気分になった。カーテンを閉めきっている為か昼なのに薄暗い部屋に入って、床に適当に座る。

「相変わらず暇そうね……」
「お前デンジと同じ事言うのな」
「デンジに会ったの?」

やはり食いついてきた。俺が話した事やデンジが言っていた事をそのまま伝えると、名前の表情が自分を追い詰める時のそれに変わる。デンジも口には出さないけど寂しかったって事だろ、と付け加えると名前はようやく笑顔になった。

「そうだとしたら嬉しいな」
「あの女の事は結局よくわかんなかったけどデンジのささやかな仕返しなのかもな」
「ささやか?どこが!あんな恋人同士が海にデートしにきたかのような光景を見せられて私がどれだけショックを受けたか!」
「俺が悪かったから落ち着け」

興奮しきってしまった名前に俺の言葉が届く筈もなく、充電器が刺さったままのポケギアを床から拾い上げた名前は素早い動作でポケギアを操作して、電話をかけ始めた。相手は言わずもがな――デンジだ。

落ち込んだり笑ったり怒ったり忙しい奴だな本当に。とにもかくにも、名前とデンジの一年に渡る夫婦喧嘩はこれで幕を閉じそうだ。

「もしもしデンジ?話したい事あるから今すぐ私の家に来て!」

さてと、邪魔者は退散する事にしますかね。お前等は世界一だよ。世界一面倒なカップルだ。

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