次の日、何故か私はまたしてもポケモンリーグへと戻ってきていた。理由はオーバに会う為だ。ポケモンセンターのオープンスペースで待ち合わせ、と電話をしたところオーバも暇だったらしいのですぐに家から飛び出してまたこの地に降り立った訳だが、私の表情はどうにも明るくならないようで、手を振りながら笑顔でこちらにやってきたオーバが、驚いたように目を見開いている。

「おいおい、何で今にも泣きそうな顔してんだよ」
「私そんな顔してる?」
「この世の終わりを悟ったかのような顔してるぜ。んで、お前にそんな顔させてる奴は誰だ」
「……デンジ」
「デンジだぁ!?ま、まじかよ。てっきり今頃二人でうふふあははな事をやってるもんかと――」
「期待してるところ悪いけどデンジとはキスどころか手も繋いだ事ないから」

私と対面する形で前のソファに腰を降ろしたオーバだったが、私がここに来た理由がデンジのせいだとわかった瞬間、ありえないと言った風に勢いよく立ち上がったので自然とオーバを見上げる形になる。

オーバが驚くのも無理はない。私がデンジのことで相談するなんて初めての事だ。私が旅に出る前だって、確かに恋人らしいことなんてひとつもなかった私達だがデンジがそういう馴れ合いを求めていない事くらい私も重々承知していたから特に不安になる事だってなかった。

でも今は違う。私の知らない女の人とデンジが一緒にいるのを見て、五年間で初めて不安というものを覚えてしまった。付き合ってる期間のうちで空白の一年間を含めてしまっていいのかわからないけれど、デンジと別れたつもりはない。デンジはその気でいるのかも知れないが少なくとも私は、ないのだ。

「デンジがどこにいるのかをチマリちゃんに聞いたらチマリちゃんがね、女の人――マリアさんって言うらしいんだけど……マリアさんと海に行ったって言うから私も海に行ったの。当然私はそんな人知らないし、でもデンジがその人とどういう関係なのかもわからなかったからとりあえず話しかけてみたんだけど――デンジが私の紹介をした時にね、私のこと……幼馴染みだって」

昨日の光景を思い出して目頭が熱くなる。昨日あった事を全て知ったオーバは口をぽかんと開けて、少し経ってから私を慰めようと考えたのか優しい声でこう言った。

「デンジが感情をうまく表に出せないのはお前も知ってるよな?」
「うん」
「んでもってあいつも初っつーか……女心を察するのも下手だろ?だからそういう言い方したと、おも……おっおい泣くなって!俺が泣かしたみたいになってるじゃねーか!」

周りの人、と言ってもここはポケモンリーグであまり人もいない為ジョーイさんくらいしかいないのだけども、ジョーイさんから冷ややかな視線を受けたオーバが頭を抱えて嘆いている。その状況が面白かったのでついつい笑ってしまうと、泣きながら笑うなと言われてしまった。

「――とにかく、悪いけど俺もその女の事は知らないからその辺はちゃんとデンジに聞いとけよ」
「オーバ、それは無理だよ」

妙に透き通った声がポケモンセンターの中心で響く。何故無理なのか疑問に思ったらしいオーバが、首を傾げていたのでなるべく笑顔でこう答えた。

「もしあの二人が本当に付き合ってたとしたら私立ち直れないもん。それによくわからないけど結構一緒にいる事多いみたいだし、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
「お前デンジとそのねーちゃんが付き合ってるって結論づけてねぇ?」

だって、あの人の幸せそうな笑顔が頭から離れない。デンジだって満更じゃなさそうだったし、それにあの人の前で私を「幼馴染み」として紹介したって事は――そういう事、なんでしょ。ねぇデンジ。

「とにかく、デンジの方から説明してこない限りデンジとはもう会わないから。絶対会ってやんない」

会わなかったら説明できるにできないだろとか、お前もデンジも素直じゃないとか言っているオーバの小言を背に私はポケモンリーグから去っていった。

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