私は去年の夏に長年住んでいた街であるナギサシティを旅立った。旅立つ前にデンジにポケモン勝負を挑んだところ、ポケモンの相性や運もあってか何とかビーコンバッジを手に入れた訳なのだがどうもデンジはそれが気に食わなかったらしく、私が旅立つ日ですら私を見送りにくるということはしなかった。

そんなデンジに少し寂しさも覚えたが彼がそういう――気まぐれで、機嫌が悪くなると何か特別な事が起こらない限り許してくれない頑固者である事は昔から知っていたので、そこまでショックは受けていない。

代わりと言っては何だが、ポケモンリーグからわざわざ私を見送りに来てくれた幼馴染みであるオーバが、「あいつも寂しいんだと思うぜ」なんてありもしない言葉を言ってのけた時はさすがに笑ってしまった。

私がいなくなったところで彼の生活には何ら支障はないし彼の頭の中にはポケモンのこと、強いトレーナーのこと、そしてジムをどう改造するかという事しかないのだから私が旅立ってしまうから寂しい、なんて思う事はありえないのだ。

それに、デンジとの約束はちゃんと守った筈だ。彼は私に「俺に勝ったら旅に出ろ。勝てるまでは絶対に許さない」と言っていた。正直、今までにも何度か挑戦した事はあったのだが最初の方はデンジの足元にも及ばなかった。デンジのポケモンと対等に戦えたのはシャワーズくらいだろう。だがそのシャワーズさえも、デンジの得意とする電気ポケモンとは相性が悪いのだ。

たまたまナギサシティに遊びにきたシロナさんから貰ったタマゴを還して産まれたドラゴン地面タイプであるフカマルを育て上げてガバイトに進化させて、そしてようやくデンジに勝利した。ここまで来るのに本当に苦労したと思う。

因みに、私とデンジは四年程前から付き合っている。こんなに長い間恋人という関係を続けているというのに手すら繋いだ事のない友達の延長上みたいな関係だったが、少なくとも私はこの関係を気に入っていた。オーバと同様幼馴染みである私達が今更そんな、恋愛的な事をしても――という感じではあるが、確かにデンジに対するこの気持ちは恋であると断言できる。きっと、デンジだってそうなんだと思う。



恋人を故郷に残して旅に出た私は色々な人やポケモンと出会い、たくさんの景色を見て、ジムにだって挑戦した。旅は本当に楽しくて、私は彼に連絡する事さえもしなかった。恥ずかしい話、この歳になるまでナギサシティという街しか知らなかった私にとって初めて見るたくさんの景色はそれ程魅力的だったのだ。

勿論デンジの方から連絡がある訳でもなかったのだが、それでも私達が仲違いしたという感じはしなかった。旅立つ日に私を見送りに来なかった、だからどうした。私が旅に出てからは連絡すら取ってない、だからどうした。

それでも私達は繋がっているんだと言い切れる自信が、私にはある。

先日、四天王を破りチャンピオンであるシロナさんに勝利した私はポケモンリーグのポケモンセンターに泊まって久々にオーバと話していた。オーバとはたまに連絡を取っていたし、昨日ポケモン勝負をしたばかりなので久々というのも少しおかしいかもしれないがこうしてちゃんと話すのは久しぶりだ。

「それにしてもお前本当強くなったなー!まさかシロナにも勝っちまうとはなぁ……」
「うん、私も吃驚だよ。本当に旅に出てよかったと思う」
「お前がチャンピオンになったのも吃驚だけど旅に出てる間全くデンジと連絡取ってないってのが一番吃驚したよ、俺は」
「だって向こうからも連絡なかったし旅に出る前怒ってたみたいだから連絡しづらくて」
「じゃあ早く帰って会ってこい!」

言われなくてもそうするつもりだ。私は今日、一年振りにナギサシティへと帰る。ナギサのバッジは旅に出る前に手に入れていたので結局ナギサシティには立ち寄らなかったのだ。今更になってデンジへの気持ちが溢れてくる。早く彼に会いたい。会って、ただいまって言いたい。

私はオーバに手を振って、ポケモンリーグから飛び立った。

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