「……さむ、い」

朝目覚めるときっちり閉めた筈の窓が開いていて、俺は布団から出ることができなくなった。むりだ。でれない。どうせ母ちゃんが煙草臭いとか言って開けたんじゃ。しかも最悪なことに外は土砂降りでザァザァと耳障りな雨音が絶え間なく聞こえてくる。これで学校に行くという選択肢はなくなった訳だ。

充電器の刺さっている携帯を開いてみると、朝の8時だということが判明した。今から準備しても部活どころか授業にすら間に合わない。布団から出れずすることもない俺は毛布にくるまったままぼーっとしていた。窓を閉めれば問題ないのかもしれないが、本当に布団から出れない。出たらきっと死ぬ。

それから10分程経って、うちのインターホンが鳴った。母親がバタバタと玄関まで移動する音が聞こえる。俺の部屋は玄関の隣なのでドアが開く音も聞こえるし誰がきたかもわかった。訪問者は名前だ。あぁもう、何でよりによって今日来た。俺を学校に連れていこうとしてるのか。お前は俺に死ねと言ってるのか。

それからすぐに俺の部屋にきた名前は「あったかい」とかありえない言葉を吐いてベッドに腰をかける。制服だからしょうがないのかもしれんが少し雨に濡れているさらけ出された生足を見てこっちまで寒くなった。

「におー早く準備しないと学校始まっちゃうよー」
「今日学校行かんし」
「えーでも今日調理実習でおいしーお菓子作るらしいよー」

のんびりとした口調で甘い罠を仕掛けてくるこいつは俺を殺そうとしている。確かにお菓子は食べたい。喉から手が出る程食べたい。学校に行けば気持ち悪くなるくらいたくさん食べれるだろう。未だに毛布にくるまったままの俺は数分間兆候していた。が、名前の死人のような冷たい手が頬に触れた瞬間またしても学校に行く気が失せた。

「づっめ゙だ!!」
「におーあったかいねぇ」

グレーのピーコートを脱いで毛布を捲る名前を見て悪寒が走る。こいつまさかこの中に入る気じゃ。先程目にした濡れた足と頬に触れた冷たい手を思い出して俺は一気に青ざめた。毛布が捲られたことによって入ってきた冷気に俺のHPは半分以上削られる。名前は寒くて動くことができないのをいいことに布団の中にもぞもぞと入ってきて、冷たい、足を、絡ませてきた。

「ちょうあったかーい!天国」

おれにとっては地獄だ。

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