「…かなこちゃん」
よく風が吹く日だった。カロスから帰ってきて、船酔いで死にそうな私に優しくしてくれた、ミクリさん。そんな事を思い出しながら彼の呼びかけに振り向いた。
「どうしてここを選んだのか…、わたしにはわかる気がするよ」
「何でだろう…プロポーズされたのがここ…、ミナモシティだったからかもしれません…」
そう答えると、きっとわかってたんだろうね…、すごく穏やかな笑顔で微笑んでくれた。
「結婚おめでとう、かなこちゃん」
「ありがとう、ございます…」
軽く握手を交わすと、海が見えるベンチに二人、並んで座る。
「チャンピオンを継いだ今でも、水ポケモンのために、ここへはよく来るのさ」
「そうなんですね。じゃあ、アクア団の事も…」
フフッと笑うと、ぼんやり遠くを眺めてる。しばらくそうしていたかな…ミクリさんはこう、呟いたの。
「イッシュでの事…、謝らなければならないな、すまなかった」
「いえ……」
これは言い訳になるかもしれないけどね…そう切り出した。
「わたしはねかなこちゃん…人として、きみが好きなんだ。きみを見ていると、汚れきったわたしの心が洗われていくような、そんな気がしたんだよ。それと同時に、いや…それ以上に…、ダイゴの事が大切でね…」
「嫉妬、みたいなもんですかね」
そうかもしれないな、そう言うミクリさんはいつもと違って、弱々しかった。
「……かなこちゃん」
「……はい」
「ダイゴの事…、宜しく頼んだよ」
ちょうど夕陽が差し込んできて。きらきら光る水面と、赤に照らされたミクリさん。見事に重なる美しさは、言葉では言い表せないほどだった。
「……はい!もちろん!」
固く握手を交わした。きっとこの先も、あの出来事を忘れる事はないけど。私と彼の間で、更なる強い絆が、生まれた気がした。