翌朝……
もとい翌昼。
目を醒ました私は特有の頭痛に頭を抱えながら、寝所から起き出した。
瞬間、ストンと天井から人が落ちて来てつい声が出る。

「お目覚めですかぃ、梨の旦那。」
「えーと…くのいちちゃんだっけ?」
「へい!今後からお見知り置きをー。」

くのいちちゃん。昨日、清盛に操られていたところを助けられて仲間になった子…だった筈だ。
いや待て、それよりも今……

「今『旦那』って言った?」
「半兵衛の旦那から聞いたんで…女の子みたいだから最初驚いたんすよぅ?」
「……うん。わかった。」

……半兵衛殿、見つけ次第殴ろう。
そう心に決めてから、目の前のくのいちちゃんの誤解を解こうと説明すると、案外あっさり信じてくれた。
本人によれば、こんな世なら何でもあり、だそうだ。……一理ある。
敬語はなしで、と確約付けて、彼女が手にしていた水を受け取って一気に煽った。

「半兵衛殿は……」
「あ、馬岱のアニキとホウ徳の旦那以外は出払ってますぜ。」
「また過去に行ったのか……」
「そろそろ……おっ、帰って来やしたねぃ。」

二人で出て行った先、かぐやちゃんの魔法陣から丁度人が飛ばされて来ていた。
大きな刀を持った腕まくりの人、二振りの斧を持った帽子の人、それから赤い鎧でこん棒の人に、オールバックの小柄な人。そして……亜麻色の髪の女の子。

「やった、女の子がいた……!」
「梨ちん…あたしも女の子…」
「女の子が増えるのは嬉しいッ!」

テンションが上がった所為か、二日酔いもなんのそので、私はその女の子を抱きしめていた。
隣にいたオールバックの人が目を剥いているのが見えたが、そんなのはどうでもいい。とりあえず自己紹介をしなければ、と顔を上げる。

「初めまして!私の名ま……」
「……お仕置きね。」

怒涛の連続攻撃を至近距離で浴び、体をサクサク刻まれる感覚を何処かで感じながら……私の意識はそこで飛んだ。

−−−−−−−−−

「お目覚めですかぃ、梨の旦那。」
「……なにその視線。っていうかその台詞デジャヴ……」

目を覚ますと、今度は急に現れるのではなく最初からくのいちちゃんが其所にいた。
昼と違うのは、彼女の視線が酷く呆れているのと、私の全身が痛いこと。
どうやら怪我をしたらしい。男の状態で攻撃は弾けないようだ。

ちらりと横を見れば、私を制裁したあの子がしょんぼりとした顔で見つめていた。

「子上殿から聞いたわ。その…ごめんなさい。女の方だと知らなくて……」
「あ、いえ…今は体がっつり男なんで…私も思慮が足らなかったです……」

子上殿って誰?とくのいちちゃんに耳打ちしたら、司馬昭殿の事らしい。しかもこの二人は許婚なのだと情報も付け足してくれた。司馬昭殿も隅に置けないな。

「元姫ちゃん、か…私の事は男女関係なく名前で呼んでくれると嬉しいな。」
「それじゃあ……梨。」

もうすぐ日が暮れる、夕飯の支度が出来ているわ。そう言う元姫ちゃんについて外に出れば、真っ赤な夕焼けが綺麗だった。
それもみるみる暗くなり、空には星が煌めいている。
…ただ一つ違うのは、僅かだが月明かりを感じたこと。

『光を浴びただけじゃダメ…か……』
体に落ちた影を見つめたあと、意を決して空を見上げ、浮かぶ月を直視した。
すると、再び訪れる違和感。

「よ、し……戻れた……。」
「わぁお……なんか小さくなった…」
「…本当に…こんなことって……」

二人とも目を丸くして立ち尽くしたまま。
夕飯を食べる為に歩いていたというのに…そう思ったら、私は二人の手を握っていた。
そのまま二人を引っ張って、夕食に参加するべく私は歩き出したのだった。
おしおきよ?!

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