「アキレウスさんって不死身なんでしたっけ。」 「…。誰からそんなことを聞いた。」 フランス兵とディンガル兵の方から、と言えば、平素傲慢に振舞うアキレウスさんの表情に影が差した。 どうやら彼なりに触れられたくない話題らしい。 「いえ…もしそれが本当なら、私と一緒だなあと思いまして…」 「フン、貴様と同類にするな。」 「相変わらずきっついですねぇ…」 特にその目線が。ゴミを見る目付きって言葉がここまで妙を得ているのもそうそうないわ。 「筋骨隆々で不死身。死神も裸足で逃げ出しますね。」 「……どこぞのへぼ詩人よりかは語彙があるようだな。」 あ、ちょっと嬉しいみたい。 表示こそ変わらないけれど、語感が柔らかくなったことに安心する。 「でも、女装キツくなかったですか?」 ……そこに隙ができたのか、私はまたいらんことを口走ったようだ。 突き刺さったのは射殺さんばかりの視線で、確実に地雷を踏んだことを知らせる。ひえええ怖!猛烈に反省、略して猛省!! 「俺はその程度に手こずるへぼではない!くたばれ!」 「そっ、そうですよね女装とか嫌な思い出……ん?!そっちですか?!」 にじり寄るアキレウスさんの瞳には、明らかな対抗心が滲んでいる。 地雷かと思われたそれは、怒りではなく対抗の導火線発火装置だったようだ。 急に手首を引っつかまれ、引き込まれたのはアキレウスさんの自室(テント)。 そしてあろうことかベッドに投げ飛ばされるという危機的状況で、アキレウスさんは豪快に服を(というか鎧を)脱ぎ捨てた。 「ひ、」 鳴る喉。流れるのは冷や汗。 動物的勘は逃走を指示するがうまく行かないのが人間の歯痒い所だと身をもって感じた。 眼前のアキレウスさんが、ぬっと私に両手を伸ばす。 不死身とは言え骨を砕かれたりするのは断る! 「ファッ?!?!」 衝撃に耐えようとぎゅっと目をつむったところに被せられたのは、明らかに場違いな上物の絹の感触だった。 手繰ってみれば、彼の時代における女性物の服なのだろう。装飾品までをも包むように畳んでいたのか、ジャラジャラと貴金属が膝の上に落ちてくる。 「俺の着ていた服だ。今の俺では着れん、貴様にくれてやる。」 え、でも。そう言おうとして顔を上げたらアキレウスさんは得意気な顔をしてこちらを……正確に言えば、私の胸を見つめていた。 「着こなせればの話だがな。」 「…着てやろうじゃないですか!!」 「フンッ、威勢だけは良いじゃじゃ馬だな。」 小娘が、なんて言った彼に宣戦布告を込めて頬を膨らませて見せた。 着替えた私を見て、悩殺されればいいんだ!! くたばれ不死身の英雄
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