「あ、あの…すみません。この赤い物はなんですか…?」

この世界には珍しい白磁のソーサーとカップを摸した器を覗き込み、上がる湯気を吹きながらジャンヌさんは首を傾げた。

戦に呼ばれない平和組として暇を持て余した私が、彼女を茶会に誘ったのが丁度10分前のこと。
用意した茶葉は混じり気の無いキーマンで、中国産茶葉でも指折りの高級品だ。
キーマンならではの蘭の香りが上手く出せたと思ったけど…そうか、ジャンヌさんの時代に紅茶はまだなかったのかぁ…
よかれ、と思ってやってみたものの、どうやら時期尚早だったらしい。

「紅茶って言って、飲み物です。いつも私が煎れてるお茶の仲間みたいなものですね。」
「紅茶…。まるで血のようですね…。」

白百合の乙女に血のように赤き茶。…言い方の所為でちょっとした背徳感がするのは気の所為。私ノ頭悪クナイ。
いい匂いだと香りを楽しんでくれるのはいいけれど…どうも一向に口にしてくれる気配がないのが寂しい。…ん?これは緑茶の時のデジャヴ?
ともあれ、一度緑茶の不信を拭った事があるからか、漸くいただきます、とカップに口を付けてくれた。

「お、美味しいですか?」
「えぇ……。」

でも。
そう言ってカップをソーサーに戻したジャンヌさんが、こちらをじっと見つめる。

「少々…苦い、です……」

えっ、と思って見つめたその先。
彼女のティースプーンは濡れた跡が無く、未使用だと物語っていた。
あっちゃー…砂糖の事話してなかったや。

「砂糖、入れていいんですよ。お好みでミルクとか」

はっと気付いたように、ありがとうございます、なんて言った矢先。
ジャンヌさんは優雅にシュガーポットを手に取って………おもむろに傾けた。

ザザザザとカップに流れ込む砂糖。
もちろん底に溜まり、水嵩は高くなる。
唖然とする私を余所に、ティースプーンで砂糖を掻き混ぜた彼女は、砂糖が溶けきらない紅茶を啜る。
ああ、そんな屈託のない笑顔で「美味しい」なんて言わないで下さいよ…!

「じ、ジャンヌさん甘党ですか…」
「甘党、とは?」
「えっ、あっ…何でもないデス……」

……今度から、お茶菓子を甘くないものにしよう。
それから彼女には、うんと甘いミルクティーを薦めよう。

ず、と啜った自分のカップは、砂糖が欠片も入っておらず、ぴりりと渋味が舌先に残った。
美女に欠点あり

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