「梨ちゃん、料理出来る?」

そう呟いた彼女の声は曇っていた。
お茶の時間に煎れた玉蜀黍の髭茶は、きっと卑弥呼ちゃんの口に合うと思ったんだけど…不味かったのかな?
そしてその心配がどうやら顔に出たらしい。こちらを見た彼女がおずおずと口を開いてくれた。

「うちな、もと居たトコで食べてたお菓子があんねんけど…こっち来てから見かけへんねん…。」

梨ちゃんのお茶が不味いんやないで!と慌てて両手をわたわたさせて、またしょんぼりとうなだれてしまった。
彼女の前には月餅。確かに中国のお菓子は、古代日本とは交わらないだろう。

「作り方分かる?」
「うーん…聞いたことはあんで?」

作ったことはないってことか、ガッデム。
輝く卑弥呼ちゃんの視線に、私の良心がズキズキと刺激を受ける。妙寺 梨、今は断る理由が…ないだろ…!

「よし、じゃあ作ってみようか!」
「ほんま?!梨ちゃん優しいわぁ!」

ぴょんぴょん跳びはね私にしがみつく卑弥呼ちゃんに、妲己さんが甘くなる理由を心底理解した。かわいいなこの子!

聞き出した内容によれば、彼女のおばあさんが作ってくれていたらしい。昔ながらの料理ってことね?
使うものは栗と山芋。まだ幼かった卑弥呼ちゃんが把握しているのはそこまでだった。所謂『縄文クッキー』ってやつか。

飯店さんから栗と山芋を分けて貰って、ついでに曹丕殿からくすねt……いや、貰った干し葡萄を取り出した。。
彼女の側であく抜きの終わった乾き栗を粉にし、つなぎに摺った山芋と卵、干し葡萄を入れる。話だけなら、砂糖は入っていないはずだ。
それを一口大のクッキーの形にして、窯に入れて一息つく。
隣にいる卑弥呼ちゃんが、目をキラキラさせながら窯の中を覗いていた。

「梨ちゃんほんまにすごい!」
「あんまり料理得意じゃないけどねー。」
「そんなことない!もっとへたっぴやと思ってたもん!」

……ぐっさり刺さった一言は良いとして、単純に焼き上がりを待つ卑弥呼ちゃんは可愛らしいの一言に尽きる。
ふんわり香ってきた栗の甘い匂いに、目を閉じて鼻を利かせた。

卑弥呼ちゃんが小さく「懐かしいなぁ」と淋しそうに呟く声は、甘い栗の香りが中和していく。
栗の甘さに合うだろう、楓糖(メープルシロップ)も貰ってこよう。かけて食べたら美味しいと思うし。

そろそろ焼き上がる。
私はもう一度お茶を準備するべく立ち上がった。今度は濃いめに、少し苦く、煎れようと決めた。

せめて淋しさが、甘さで紛れますように。
中和剤、要処方

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