「ちょ、私まだ協力するなんて一言も……っ!」 言いかけて、言葉を飲み込んだ。 彼女の力で帰れるはずなのに、此処に引き止められるなんて…それは帰ることは不可能だと暗に言われているも同然ではないか。 つまり今の私に「断る」という選択肢などない。…ですよね? 「お、おい、そんなに暗い顔するなよ?」 「大丈夫、俺達が未来を変えるんだ。これからね。」 胸元の空いたチャラ男と可愛らしい少年の励ましに、ほんの少しだけ安心して微笑みかけた刹那、兜の男は二人の間を通って、長い槍を私の首に槍を向けていた。 「馬超!何やってんだよ!?」 「本当に敵の間者ではないんだな?刃を向けても…動じんのに、な。」 試されているのは分かったけれど、一つだけ弁明したかった。 …肝が座って動かないんじゃない。怖すぎて動けないんです。 もちろん弁明するために口も開けないんですけどね。 「ば、力込めすぎ……ッ!!」 「!?切れん、だと?」 「はぁ?それどういう……」 目の前でギリギリとせめぎ合ううちに、三人は力を抜いていた。 話の内容は切れてるだか切れてないだか…一瞬黒い長髪を思い出したのは言うまでもないが、今はそれどころじゃないようだ。 三人して私を至近距離で見つめ、チャラ男は顎筋に指を添えて顎を持ち上げてくれた。 6つの視線は首筋に集中。 「確かに…ちょっと焦るくらいの力だったよね。」 「それが擦り傷もないのか…」 「……かぐや、本当にコイツは人間なのか…?」 「え、ええ……。」 状況は把握した。 把握した上で、何も言えない。 傷を受けない、らしい。 「あの…。」 「どういうことか説明してもらおうか?」 「あぁ…すいません、私もワカリマセン。」 「うっわあ、遠い目…。司馬昭さん、これほんとに分かんないみたい。」 「半兵衛殿は信用するのか?」 「まぁね…かぐやさんを信じられるなら、この子も信じられるよ。」 真剣な瞳に見つめられて、一瞬後ろに引いてしまった。 可愛らしさに隠れた強かさを瞳に感じるなんて、恐ろしい体験だ、これは。 そう思ったのも一瞬。瞬きの間に純粋な笑顔に戻った彼は、両脇の二人に先駆けて右手を差し出していた。 「はじめまして、俺は竹中半兵衛。君の名前は?」 「!?た、竹中半兵衛?!」 衝撃は大きかった。 一歩どころかのけぞりそうになり、慌てて呼吸を整える。 竹中半兵衛……まさに私が京都に泊まる理由になっている人物が目の前にいたとは…! しばらくラマーズ法を繰り返す私が喋り出さないと思ったのだろう、残りの二人も改めて名を告げる。 その度に目を剥かざるを得ない。中国と日本…三國と戦国が、ごちゃごちゃになっているのだから。 『れ、歴史専攻者からしたらとんでもない世界……っ!』 「ちょ、ほんとに大丈夫?息できる?」 「だ、大丈夫です……」 「ははは、面白い奴だな!」 心配そうに背をさする半兵衛、笑い出す馬超。 そんな中、す、と両手を握ったのはかぐやだった。 にこやかに笑んで、もう一度、同行を求めてくれる。 ……もうこうなったらどうとでもなれ! 「妙寺 梨。よろしく、お願いしますっ」 なんにもできないけど
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