※女カさんの性癖注意!


はたと私を見るなり、その人はあるまじき顔をしてこう言った。

「汚らわしい。」

……確かにその時の私は火計に巻き込まれた所為で全身煤だらけだったけれど、丁度煤をお風呂で流して来たばかり。だから彼女はそれを汚いと言いたかった訳ではない、確実に。

今日は新月で、今の私の身体は男へ変貌を終えている。
その上、上半身裸で手ぬぐいで頭を拭いていたところだったなんていう最悪のタイミングだった。

「いや…そんなこと言われたら流石に傷付k…」
「私に触るな。」
「女カさぁん……」
「お前がそのような生物だとは知らなかったぞ。」

ふい、と、腕を組んだまま顔を背けられてしまった。
女カさんに出会って始めての変化だから言わなかった私も悪いんだけど…これは流石に予想外の反応過ぎて言葉を無くしてしまう。
男の人が嫌い、という訳ではなかったはずなんだけどな……

「女カさん、男性恐怖症とかそういうのではないです…よね?」
「私が何かを恐れると?」
「あ、いえすみません…」

ちょっと逆鱗に触れかけたので、慌てて「男性が嫌いなのか」と聞き直した。
答は……あ、首を横に振ってる。

「じ、じゃあなんで私はダメなんですかー…」
「うっ……」

男になっても私は女カさんより小さく、詰め寄れば意図せず上目遣いになる。
どうやらそれが効いたみたいで、あの女カさんが言葉を詰まらせた。目が泳いでいるのが珍しい。
伏犠殿が見たら卒倒するかもしれないぞこれ。

「わ、私はただ貴様が見知らぬ者であると思っただけで……」
「そんなに顔付き変わらないはずなのですが…」
「だ、黙れ!誅するぞ!」

細剣の先から繰り出される氷撃をスレスレで躱し、額に掛かった髪を後ろに撫で付ける。
もしかして今のこの格好の所為で誅されそうな感じ?女カさん恥ずかしがってるとか?!

「まっ、待って下さい今服着ますから!!」
「そういう問題ではない!」
「じゃあどうして誅されなきゃいけないんですか!」

理由を問えば「五月蝿い」と一蹴されて氷撃の嵐。
彼女の顔を覗き見ると、心無しか落胆の色を読み取ることができて首を傾げたくなる。
はて…戦で女カさんを落胆させるようなことをしたかな…。
――……いやいや。万が一戦で失策したら、憤怒で即天誅の末路に決まってるだろJK!
そんな風にごちゃごちゃ考え事をしながら走っていたのが悪かったのか、次の瞬間私の両足が床ごと氷漬けにされていて息を呑む。

「ま、まあまあ待って下さいって…!」
「今すぐ元の姿に戻れ。」
「え、その程度……って無理ですよ?!」

最低でも明日の夜まで無理です!そう喚いた私の首筋に冷たい細剣の刃が当たる。
絶対零度の瞳に、抵抗は許さないというメタメッセージを受信した。
元に戻る為の仕組みを丁寧に丁寧に説明して、それとなく交換条件を立てるように話題を逸らす。
乗るか、反るか…まさか自陣で仲間とここまで緊迫したやりとりをするとは……平和なんだかどうなんだか分かんないなぁもう…。
彼女の提示する交換条件を飲むつもりではいるけど、さて何を提示するかな…

「戻ったら、ひ、膝枕を……」
「膝枕くらいお安い御用で!……ん?膝枕?」
「わ、分かったなら今すぐ私の目の前から消えるのだな。」

パリンと音を立てて足を拘束していた氷が砕け散り、首元の細剣もあっさりと収められる。
これで私が彼女の目の前から「消える」準備を整えられた訳なのだが、何故か彼女は私に背を向けて颯爽と去ってしまった。

頭の中で渦巻くのは、膝枕とSデレの二言とそして…――

女のコ限定…?

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