「遠呂智殿はもう髪色変えたりしないんですか?」 「髪の…色?」 もぐ、と団子を頬張った彼は、私が何を言っているのか分からないと言いたげな視線を寄越した。 あ、そうか。あの時の遠呂智殿は自我がないんだったっけ。 記憶に新しい八人の遠呂智殿。皆違った髪の色と甲冑を身につけ、空っぽのまま戦っていた。 今でこそ、彼がいかに感情を持って生きているか知ったのだけど。 「この間、また悟空にからかわれたそうで?」 「む……『蛇が空を飛んでいる』と。」 「ふふ、それで見ちゃったんですね。」 くすくす笑ったらまさに蛇睨みの視線が寄越されたので、かろうじて笑いを噛み殺した。怖いけれど、身が竦むけれど、今の遠呂智殿の眼差しはちょっと拗ねているとわかる。 目は口ほどに物を言う、か。随分慣れたなぁ、私も。 そうしたら、視線だけだった彼が体ごとこちらを向いて自分の顎を指差した。 今度見つめたその目は、好奇心で溢れている。 「梨、顎にゴミが付いているぞ。」 「はい。」 「…。何故、顎を突き出す?」 「取って下さるんでしょう?」 「………嘘だ。」 ぷいっと横を向いたその無表情な顔が可愛らしくて、思わず遠呂智殿の肩に寄りかかった。 おそらく今の引っ掛け問答は悟空からの受け売りなのだろう。…ってことは彼は一度引っかかったのか。見たかったじゃないの! ぶすっとしてしまったのは完全に私の所為だし、宥めようにも団子はもう無い。さてどうしよう、と見上げた彼の顔を見てはっと思いついた。 「遠呂智殿、悟空に仕返ししたくありません?」 「……。」 「無言の肯定でいいですね?」 のしかかっていた肩から身を離し、名前を呼んでこちらを向いてもらう。 出来るだけ真剣な顔をして、臨場感を醸し出した。 「あと3秒で、世界が終わります。」 「………見え透いているな。」 くだらぬ、と言う彼は、それでも話を切ろうとはせずに私に続きを促してくる。 だから、貴方が言えばもっと現実味ありますよ?なんておどけて見せた。 「……そうか。」 「悟空騙せるといいですねー。」 「梨、」 名前を呼ばれたから、はい?なんて呑気に返事をしたら、真摯に見つめられていた。 「あと3秒で世界が終わる。」 「それ、」 「我の傍を離れるな。」 「?!」 …なんてことを真顔で言うのか、この人は! もともと顔に出やすい私はこの恥ずかしさに耐えることが出来なくて、茹蛸ばりに動揺してしまった。 ああ、もう!仏頂面のはずの遠呂智殿が笑ってる!笑われてる悔しい! 「そ、それ嘘って酷くないですか!」 「ふ……我は嘘と言っていないが。」 「−−〜っ…!」 もういたたまれなくてだっと駆け出した私の視界の端に、彼の髪が入り込む。 心なしか桃色
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