大きなおおきな月だった。


友人とフライング卒業旅行を楽しむべく、春休みに訪れた京の都。
……まあ、要は卒論の為に訪れただけだが、折角の遠出に楽しみを見出だしたかった、それだけのこと。

もう夜も更けていたけれど、宿から抜け出した私は名も知らぬ赤い橋の上で、一人水面に浮かぶ大きな満月を眺めていた。

「望月のかけたるなんとか〜…ってこれじゃあ駄目か。」

盛華を歌っては身の滅びを招くのが常だと、道長は示した。
今そんなことを言ってしまったら、私の卒論は落ちる。多分。

「しかし北野天満宮で凶を引いたのはイタいなぁ…」

内容はなんだっけ。
確か、受難の相があるとかそんなんだった気がするな。

お先真っ暗だったらどうしよう…ああ、何かを燃やせばいいよ、友達はそう言って笑った。

「ま、放火は良くないですよー。」

言いつつ、ぽい、と川に投げた小石が波紋を立てる。
それを眺めていたら、波打つ月が、一瞬不自然に煌めいた。

そう思った私の背中が、ぐっと押される。
水面の月を盛大に揺らして、私は落ちた。

息が出来なかった。
……まあ水の中だし。当たり前のことだけど。

もがいて浮上しようとする体と反して、一向に水面にたどり着かない。
おかしいな…浮いていく感覚は体中で感じているのに?

そのうち息も限界に近付いて、もうダメだと自分の首を掻きむしったその時、水に浸かった浮遊感が全て消えた。
代わりに襲った墜落する感覚。お尻への衝撃。

今思うなら、何故落ちてまた落ちたのか…溺れた私には考える暇がなかったのだろう。

「いったあ………」

しこたま尻餅を付いた私に、何故か上から声が降り懸かった。


「貴女は………どなた様でしょうか?」

月夜誘われ

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