のっそりのっそり巨体を揺らしている目の前の赤毛は、ふにゃふにゃとした視線を私に投げて寄越す。

いつもなら私の部屋にのさばるこの万年酔っ払いを宥めつつ、彼の自室の布団に寝かせ私は私で茶葉の調合を始めるのだが……今回はそういかないみたいだ。

「……めんど、くせ……」
「あーもう、むやみやたらにそれ使わないでよー!」

司馬昭殿の入れ知恵ですっかり駄々っ子になった酒呑が、眠たそうな目のままゆらゆら揺れ続ける。
眠たいなら布団で寝て!そう一喝しても首を軽く横に振って、また「めんどくせ」
正直、私が今男なら気絶させてでも引っ張っていきそうな気分だよ、酒呑。

「私が怒る前に、ほら、立って立って!」
「………立てん。」
「なんでそんなになるまで飲むの?!」

胡座をかいた酒呑の横に立って、肩甲骨あたりを叩きながら左腕を上に持ち上げる。
…体格差が有りすぎて、腕一本すらまともに上がらないとかなんなの。

それでも今なら私の方が少し大きいから、酒呑が上目遣いでこちらを見てきた。
きっと眠い所為だ。ウルウルした瞳に小動物めいたものを感じて一瞬力が緩む。
か、可愛いとか思ったんじゃないから!

「……おやすみ…」
「…は?え?ちょっと、此処で寝ないで!」

その一瞬の隙に、左腕を上げたまま礼儀正しく挨拶をして、すうっと瞼を閉じた彼は規則的な呼吸を始める。
もうこうなったら動かせない。私には起こすことすら叶わない。

ちゃんと言うことを聞いて部屋に帰ってくれたのに、ちょっとした反抗期かとセルフつっこみをかまして彼を見た。
すやすやと寝られては、今更起こすのも可哀相に思えてきて…大概私も甘いなぁ。

「しょうがないなぁ…、めんどくせ!」

私の布団を引いて、座ったままの酒呑を倒した。
バフッと沈み込んでも、全く彼は起きない。彼には小さい掛け布団をお腹に掛けてあげて……こうして見ると子供みたいだな。流石童子。

それから茶器達を手繰り寄せて手近な机に置き、明日の朝に煎れる茶葉を混ぜた。
こちらの世界で特別に作らせた紅茶と、たまたま見付けたミントのような香草。二つを配合させて、朝に合うお茶に仕上げていく。
……どうせ起きたら二日酔いで頭がぐらつくだの言うから、少しだけミントを多くしてやった。

「う…限界だー、私も寝る!!」

真後ろに倒れれば、丁度良いところに酒呑の二の腕。ああ、枕にするにはピッタリだわ。
すっかり布団からはみ出した私は、ほんの少しの恨みを込めて、彼の耳元で囁いた。
……酒呑が妖魔と一緒にいた頃、良く戦場で聞いたあの台詞を。

このグぅズぅ!

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